難病Update

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[11C]ABP688PET/MRハイブリッドシステムREM睡眠行動障害パーキンソン病

2024.06.26

REM睡眠行動障害を合併したパーキンソン病患者におけるグルタミン酸シグナル伝達

Glutamate Signaling in Patients With Parkinson Disease With REM Sleep Behavior Disorder

Christopher E J Doppler*, Aline Seger*, Ezequiel Farrher*, Cláudia Régio Brambilla*, Lukas Hensel*, Christian P Filss*, Martin Hellmich*, Ana Gogishvili*, N Jon Shah*, Christoph W Lerche*, Bernd Neumaier*, Karl-Josef Langen*, Gereon R Fink*, Michael Sommerauer*

*From the Cognitive Neuroscience (C.E.J.D., A.S., L.H., G.R.F., M.S.), Institute of Neuroscience and Medicine (INM-3), Forschungszentrum Jülich; Department of Neurology (C.E.J.D., A.S., L.H., G.R.F., M.S.), Faculty of Medicine and University Hospital Cologne, University of Cologne, Köln; Institute of Neuroscience and Medicine (INM-4) (E.F., C.R.B., A.G., N.J.S., C.W.L., K.-J.L.), Forschungszentrum Jülich; Department of Nuclear Medicine (C.P.F., K.-J.L.), RWTH University Hospital, Aachen; Institute of Medical Statistics and Computational Biology (M.H.), Faculty of Medicine and University Hospital of Cologne, University of Cologne; Faculty of Medicine (A.G.), RWTH Aachen University, Germany; Engineering Physics Department (A.G.), Georgian Technical University, Tbilisi, Georgia; Institute of Neuroscience and Medicine (INM-11) (N.J.S.), Molecular Neuroscience and Neuroimaging, JARA, Forschungszentrum Jülich; JARA-BRAIN-Translational Medicine (N.J.S.), Aachen; Department of Neurology (N.J.S.), RWTH Aachen University; and Institute of Neuroscience and Medicine (INM-5) (B.N.), Forschungszentrum Jülich, Germany.

Neurology. 2024 May 14;102(9):e209271. doi: 10.1212/WNL.0000000000209271. Epub 2024 Apr 17.

 

REM睡眠行動障害(RBD)を合併したパーキンソン病(PD)はさらに悪性の表現型であり、運動症状の進行が速く、非運動症状による負担が大きい。しかし、神経伝達系の不均衡に関するこのような臨床的相違の根底にある神経機構については依然として分かっていない。磁気共鳴(MR)スペクトロスコピーと[11C]ABP688 PETをPET/MRハイブリッドシステムで組み合わせて、PD患者における2つの異なるグルタミン酸シグナル伝達の機序を同時に検討した。夜間のビデオ睡眠ポリグラフでのRBDの状態によって患者をグループ分けし、年齢をマッチさせ、性別をマッチさせた健康な対照者(HC)と比較した。ボーラス-持続注入法に従ったスキャンを開始してから45 - 60分後の定常状態の条件下で、代謝物を補正した血漿中濃度から[11C]ABP688の総分布容積(VT)を推定した。シングルボクセル刺激エコー取得モードのMRスペクトロスコピーで左大脳基底核のグルタミン酸、グルタミン、グルタチオンの濃度を調べた。

測定の結果、RBDを合併したPD患者16例では、RBDを合併していない17例およびHC 15例と比較して、[11C]ABP688のVTが全体的に増加していた(F(2,45)=5.579、P=0.007)。逆に、グルタミン酸作動性代謝物には群間差がなく、[11C]ABP688の局所のVTとの相関も認められなかった。[11C]ABP688のVTには無緊張を伴わないREM睡眠の量との相関(F(1,42)=5.600、P=0.023)、およびPD患者におけるドパミン作動薬の治療効果との相関(F(1,30)=5.823、P=0.022)が認められた。

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38630966/

コメント

PDにおいてRBDは、夜間睡眠中の異常行動であり、オーバーな表現であるかもしれないが、主介護人を心ならずも肉体的、精神的に傷つけ、家族崩壊にもつながりかねない困った症状の一つである。クロナゼパムのRBDに対する作用機序は解明されていないが、睡眠中の総合的な運動調節系の鎮静化ないし不快な夢体験を抑制することから、RBDに応用されることが多い。今回の論文は、クロナゼパムの作用点の一つと考えられているmGluR5への作用を、antagonistである[11C]ABP688とPET/MRハイブリッドシステムを組み合わせてみたものである。

今回の結果から、筆者らが考察しているように、PDとRBDを合併した患者では、グルタミン酸濃度は影響を受けていないにもかかわらず、[11C]ABP688のVTが高くなっていることから、グルタミン酸作動性シグナル伝達が変化していることが示唆される。臨床的に、RBD出現時、スイッチのon&offは不明だが、何らかの刺激で、急にRBDが消失することと一致する。mGluR5を標的とする新たなRBD治療薬開発につながる論文と考えられ、取り上げた。

監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生

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