難病Update

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イブルチニブブルトン型チロシンキナーゼ慢性リンパ性白血病(CLL)

2024.06.26

A041202試験の追跡調査は、高齢の慢性リンパ性白血病(CLL)患者におけるイブルチニブレジメンの持続的な有効性を示している

Follow-up from the A041202 study shows continued efficacy of ibrutinib regimens for older adults with CLL

Jennifer A. Woyach*, Gabriela Perez Burbano, Amy S. Ruppert*, Cecelia Miller*, Nyla A. Heerema*, Weiqiang Zhao*, Anna Wall, Wei Ding, Nancy L. Bartlett, Danielle M. Brander, Paul M. Barr, Kerry A. Rogers*, Sameer A. Parikh, Deborah M. Stephens, Jennifer R. Brown, Gerard Lozanski*, James Blachly*, Sreenivasa Nattam, Richard A. Larson, Harry Erba, Mark Litzow, Selina Luger, Carolyn Owen, Charles Kuzma, Jeremy S. Abramson, Richard F. Little, Shira Dinner, Richard M. Stone, Geoffrey Uy, Wendy Stock, Sumithra J. Mandrekar, and John C. Byrd

 

* The Ohio State University Comprehensive Cancer Center, Columbus, OH.

 

Blood. 2024 Apr 18;143(16):1616-1627. doi: 10.1182/blood.2023021959.

 

A041202試験(NCT01886872)は、未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)高齢患者を対象に、ベンダムスチン+リツキシマブ併用療法(BR)を、イブルチニブ単独療法およびイブルチニブ+リツキシマブ併用療法(IR)と比較する第3相試験である。本試験の当初の結果で、イブルチニブを含むレジメンにおいて優れた無増悪生存(PFS)が示され、また、リツキシマブの追加による上乗せ効果は認められなかった。

 

本稿では、上記試験についての追跡調査に基づく最新の解析結果を紹介する。中央値55ヵ月の追跡調査において、PFS期間は、BR群では中央値44ヵ月(95%信頼区間[CI3854)であり、一方、イブルチニブを含むいずれの2群でも中央値に達しなかった。48ヵ月時点の推定PFSは、BR群、イブルチニブ群およびIR群で、それぞれ47%、76%および76%であった。イブルチニブレジメンの標準化学免疫療法に対する優越性は、TP53異常、11q欠失、複雑核型、および免疫グロブリン重鎖可変領域(IGHV)変異状況によって定義された患者サブグループにおいて一貫して認められた。治療群と、11q欠失、複雑核型、またはIGHV変異状況との間に有意な交互作用は認められなかった。しかし、TP53異常を有する患者では、PFSに、より大きな差が認められた。つまり、イブルチニブによる効果は、TP53異常を持つ患者において増強された。全生存率に有意差はなかった。イブルチニブに関連した注目すべき有害事象に、心房細動および高血圧が含まれていた。心房細動はBR群の11例(3%)、イブルチニブ群の67例(18%)で観察された。グレードを問わない高血圧は、BR群の95例(27%)、イブルチニブ群の263例(55%)で観察された。

 

以上より、未治療のCLL高齢患者において、イブルチニブレジメンによりBRと比べてPFSが延長することが示された。このような有用性は、高リスクグループを含めた全てのサブグループで認められた。特記すべきこととして、イブルチニブ群では、CLLで最も高リスクの特徴として認められるTP53異常を有する患者においても劣ったPFSは認められなかった。今回の追跡調査データは、未治療のCLL患者におけるイブルチニブの有効性を引き続き示している。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38215395/

コメント

近年、造血器悪性腫瘍に対する治療は飛躍的な進歩を遂げた。疾患の分子病態に基づいた分子標的薬の発明・開発もその一つである。たとえば、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるイマチニブなどの出現により、慢性骨髄性白血病(CML)の治療戦略は大きく変わり、その予後は大きく改善した。TKIの出現までは同種造血幹細胞移植がCML患者の長期生存・治癒を目指せる唯一の治療法であったが、TKIを内服し続けることにより同種造血幹細胞移植なしで長期生存・治癒を目指すことができるようになった。

 

慢性リンパ性白血病(CLL)についても、分子標的薬の出現が治療戦略を大きく変えた。本論文にあるイブルチニブはブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であり、分子標的薬の範疇のものである。本論文では、イブルチニブのCLLに対する長期的な効果について解析した結果が報告されている。予後不良因子を持った患者に対する治療成績について述べられていること、また一方で、注意・注目すべき循環器系有害事象についても述べられていることなどにおいて興味深い。



監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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