難病Update

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ALSGWASReversalインスリン成長因子-1

2024.08.29

筋萎縮性側索硬化症の回復表現型の遺伝的関連

Genetic Associations With an Amyotrophic Lateral Sclerosis Reversal Phenotype

Jesse I Crayle*, Evadnie Rampersaud*, Jason R Myers*, Joanne Wuu*, J Paul Taylor*, Gang Wu*, Michael Benatar*, Richard S Bedlack*

*From the Department of Neurology (J.I.C., R.S.B.), Duke University School of Medicine, Durham, NC; Department of Neurology (J.I.C.), Washington University in Saint Louis, MO; Center for Applied Bioinformatics (E.R., J.R.M., G.W.), St. Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN; Department of Neurology (J.W., M.B.), University of Miami Miller School of Medicine, FL; and Department of Cell and Molecular Biology (J.P.T.), St. Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN.

Neurology. 2024 Aug 27;103(4):e209696. doi: 10.1212/WNL.0000000000209696. Epub 2024 Jul 30.

「ALS Reversal」とは、当初は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断基準を満たした、又は進行性筋萎縮(PMA)に最も合致する臨床的特徴が見られていたが、その後に大幅かつ持続的な臨床的改善が認められた患者を表す語である。このゲノムワイド関連解析(GWAS)の目的は、通常と異なるこの臨床表現型の相関を同定することである。以前に作成したALS回復表現型患者のデータベースから参加者を募集した。全ゲノム解析(WGS)のデータをCReATe ConsortiumのPhenotype-Genotype-Biomarker(PGB)研究から組み入れて民族でマッチさせた典型的な進行性ALS患者と比較した。

ALS回復例と確認された22例のWGSをPGB主要コホート(n=103)およびTarget ALS検証コホート(n=103)と比較した。2つの遺伝子座が事前に定義した統計的有意性の基準(両側並べ替えP≦0.01)を満たし、ファインマッピング後も妥当であった。1つ目の遺伝子座の主な一塩基変異(SNV)はrs4242007であった(主要コホートのGWASでOR=12.0、95%CI 4.1 - 34.6)。このSNVはIGFBP7イントロンにあり、IGFBP7プロモーター領域のSNVとほぼ完全に連鎖不平衡である。いずれのSNVもeQTLデータセットで前頭皮質のIGFBP7発現の低下と関連している。注目すべき点として、回復例のうち3例でrs4242007がホモ接合であったが、典型的な進行例(n=243)にそのような患者はいなかった。

URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39079071/

コメント
神経変性疾患の中で、最も予後不良疾患の一つがALSであるが、ごくまれだが、症状の消失した報告例があり、筆者自身も、ALSと指定難病で受理されながら、10年以上進行をみない例を経験している。ALSなど変性疾患の確定診断は、病理診断であるため、誤診は否定できないが、今回の報告での検証で、回復表現型と、IGFBP7の発現に関連するIGFBP7非コード領域のSNVとの間に有意な関連があることが判明した。筆者らが指摘するように、IGFBP7は、神経保護作用があるかもしれないインスリン成長因子-1(IGF-1)シグナル伝達経路を活性化するIGF-1受容体の阻害因子として報告されているためであり、IGF-1 pathwayへの遺伝的関与で、reverseが起こりうることが示唆された。今後、さらなる多数例での検討を要するが、ALS診断上注目すべき報告であり、興味があり、取りあげた。


監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生

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