2024.08.29
B細胞を標的としたCAR T細胞療法はヒトおよび非ヒト霊長類においてCD8+細胞傷害性CARnegバイスタンダーT細胞を活性化する
B-cell-directed CAR T-cell therapy activates CD8+ cytotoxic CARneg bystander T cells in patients and nonhuman primates
James Kaminski*, Ryan A. Fleming*, Francesca Alvarez-Calderon*, Marlana B. Winschel*, Connor McGuckin*, Emily E. Ho, Fay Eng, Xianliang Rui*, Paula Keskula*, Lorenzo Cagnin*, Joanne Charles*, Jillian Zavistaski*, Steven P. Margossian*, Malika A. Kapadia*, James B. Rottman, Jennifer Lane*, Susanne H. C. Baumeister*, Victor Tkachev*, Alex K. Shalek, Leslie S. Kean*, and Ulrike Gerdemann*
* Division of Pediatric Hematology-Oncology, Boston Children’s Hospital, Boston, MA.
Blood. 2024 Jul 4;144(1):46-60. doi: 10.1182/blood.2023022717.
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞はB細胞由来悪性疾患に対する治療として有望であるが、初期の奏効率は高いにもかかわらず、かなりの割合の患者が最終的に再発をきたす。最近の研究においてin vivoでのCAR T細胞機能のメカニズムが探索されているが、CAR-T細胞周囲のCARnegバイスタンダーT細胞の活性化ならびにそれらが抗腫瘍反応を増強する可能性についてはほとんど解明されていない。
本研究では、非ヒト霊長類(NHP)および患者に由来するT細胞について、B細胞を標的としたCAR T細胞療法後におけるCARneg T細胞のバイスタンダー活性化の表現型および転写に関する特徴を明かにするためにシングルセルRNAシークエンシングを実施した。
ヒトの臨床に応用しやすいCD20 CAR NHPモデルにおいて、活性化されたCD8+ CARneg T細胞の明確に区別できるポピュレーションがCAR T細胞増殖時に出現することが認められた。これらのバイスタンダーCD8+ CARneg T細胞は、ナチュラルキラー細胞マーカー(KIR3DL2、CD160、およびKLRD1)、ケモカイン、およびケモカイン受容体(CCL5、XCL1、およびCCR9)の発現上昇、ならびにナイーブT細胞関連遺伝子(SELLおよびCD28)の発現低下という特有の転写上の特徴を示した。CAR T細胞療法薬チサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel)を投与した患者の末梢血サンプルでは、転写上の特徴が類似した細胞集団が認められた。メカニズム解析の結果から、インターロイキン(IL)-2およびIL-15への曝露がバイスタンダー様CD8+ T細胞を用量依存性に誘導することが明らかにされた。バイスタンダー表現型を有する、in vitroで活性化されたT細胞ならびに患者に由来するT細胞は、T細胞受容体を介さない別のメカニズムにより白血病細胞を効率的に殺滅した。
これらの結果を併せると、我々の知る限り、今回の研究は、B細胞を標的としたCAR T細胞療法後におけるCARnegバイスタンダーCD8+ T細胞の初の包括的な同定および遺伝子発現プロファイルを示すものであり、また、CAR T細胞の投与により高い抗白血病反応をもたらす新規のメカニズムを示唆するものである。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38558106/
コメント
CAR T細胞は、腫瘍細胞に発現している抗原を認識するように設計されている。つまり、CAR T細胞表面の抗原特異的レセプターが腫瘍細胞表面の抗原と結合し、そのCAR T細胞が腫瘍細胞を攻撃する。このような腫瘍環境において、抗原特異的レセプターを有さないT細胞、つまりバイスタンダーT細胞が抗腫瘍免疫反応にどのように関わっているのかを解明することは非常に興味深いテーマである。本論文においては、最近進歩が著しいシングルセルレベルでの解析を用いてこの問題に取り組んでいる。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生