2024.09.27
イングランドにおける食物アレルギーの疫学動向:Clinical Practice Research Datalinkを使った観察データによる分析
Time trends in the epidemiology of food allergy in England: an observational analysis of Clinical Practice Research Datalink data
Paul J Turner*, Alessia Baseggio Conrado, Constantinos Kallis, Eimear O’Rourke, Sadia Haider, Anhar Ullah, Darije Custovic, Adnan Custovic, Jennifer K Quin
* National Heart & Lung Institute, Imperial College London, London, UK. Electronic address: p.turner@imperial.ac.uk.
Lancet Public Health. 2024 Sep;9(9):e664-e673. doi: 10.1016/S2468-2667(24)00163-4.
食物アレルギーの推定有病率はこれまで報告の間に大きなばらつきがあり、また成人のデータは乏しい状況にあった。そこでイングランドの1998 - 2018のデータ及びイングランドの主要病院の診療データ(Clinical Practice Research Datalink)を用いて、食物アレルギーの罹患率と有病率を算出、この間の疫学動向を分析した。食物アレルギーの者を、(1)可能性がありそうな者、(2)ほぼ確実である者、(3)ほぼ確実でありアドレナリン自己注射薬の処方を受けていた者の3群に分けてみた。アドレナリン自己注射薬の処方を受けていた者の割合を年齢、および食物アナフィラキシーの既往、地域の経済的多重困窮度(English Index of Multiple Deprivation:IMD)、また一般診療と救急診療の受診者別に分けて分析した。
研究対象とした患者は7,627,607人、その中で食物アレルギーの可能性がある者は150,018人であった。年齢の中央値19歳、女性55.1%、男性44.9%であった。食物アレルギーがほぼ確実である者は121,706人、アドレナリン自己注射薬の処方を受けていた者は38,288人であった。食物アレルギーがほぼ確実な者の10万人年当たりの推定罹患率(以下、罹患率)は2008年から2018年の10年間で75.8人(95%CI:73.7 – 77.9)から159.5人(95%CI:156.6 – 162.3)であり、倍増していた。推定有病率(以下、有病率)は、同期間中に0.4%(6,432,383人中23,399人)から1.1%(7,627,607人中82,262人)に上昇していた。5歳未満の小児の有病率が最も高かった(2018年は296,406人中の4.0%)。学童期の小児(2018年では5 – 9歳473,597人中の2.4%、15 – 19歳404,525人の1.7%)であった。成人(2018年では5,992,454人中の0.7%)であった。年齢上昇にともない有病率が低下していた。食物アナフィラキシー既往がある患者(3,980人)の中でアドレナリン自己注射薬の処方を受けていた者は2,321人(58.3%)であった。年齢階層別では小児1,524人中の64.0%、成人2,456人中の54.8%であった。この割合は、経済的に困窮度が高い地域の者においてその割合が低かった。食物アレルギーと記録された503,198件の97.1%はプライマリケアからであった。食物アレルギーとされた130,832人の88.4%がプライマリケアの場でのみ管理されていた。
イングランドにおいて食物アレルギーの者が増加していること、その大部分の者が病院ではなくプライマリケアの場で管理され、食物アナフィラキシー既往歴のある者のアドレナリン自己注射薬の処方率は低いことが明らかになった。食物アレルギーの者に適切に対応するためにはプライマリケアの医療従事者への支援が重要であることが示された。
本研究は、英国食品基準庁および英国医学研究会議から資金援助を受けて行った。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39214635/
コメント
食物アレルギーの有病率はその定義の仕方や地域によって様々であった。本研究はイングランドにおける食物アレルギーの実態を大規模な地域の人口ベースの調査に基づき罹患率や有病率を正確に計算し、またその動向を初めて明らかにしたものである。食物アレルギーの有病率は2008年からの10年間に有病率は倍増していることが示された。食物アレルギーを持つ者のほとんどの人はプライマリケアの場でのみ管理され、アドレナリンの自己注射の処方率は低く、アナフィラキシーを経験している人でも低いことが明らかにされた。この割合は経済的に恵まれない地域に住む人では低率であった。経済的多重困窮度の高い地域に住む人々の間で、アドレナリン自己注射の処方が少なく、救急外来への受診が多いなど医療提供の潜在的な格差があることが示された。多様な食物、食品を摂取するようになってきている。また難病の背景にアレルギーが関係していることもわかってきている。食物アレルギーの実態の把握や動向や予後について、今後も継続的にみていく必要がある。
監訳・コメント:関西大学・社会安全学研究科・公衆衛生学・特別契約教授 高鳥毛敏雄先生