2024.10.29
Susac症候群のグルココルチコイド治療とそれに加えて免疫抑制薬または静注免疫グロブリン製剤を加えた治療の比較評価:フランスの全国患者のコホート研究
Immunosuppressive agents or intravenous immunoglobulin in addition to glucocorticoids in the treatment of Susac syndrome: a French national cohort study
Alexandra Kachaner*, Arthur Mageau*, Tiphaine Goulenok*, Chrystelle François*, Nicole Delory*, Marie-Paule Chauveheid*, Cedric Louenan, Serge Doan, Caroline Halimi, Isabelle Klein, Thomas Papo*, Karim Sacré; French Susac Study Group
* Department of Internal Medicine, Hôpital Bichat–Claude Bernard, Assistance Publique Hôpitaux de Paris, Université Paris Cité, Paris, France.
Lancet Rheumatol. 2024 Sep 18:S2665-9913(24)00220-0. doi: 10.1016/S2665-9913(24)00220-0. Online ahead of print.
Susac症候群は、主に若年女性に好発し、脳、網膜、内耳に限局した微小血管閉塞を特徴とした稀な疾患である。Susac症候群の治療に関する無作為化対照研究やコホート研究は見当たらなかった。Susac症候群の患者に対するグルココルチコイド単独治療と免疫抑制薬併用または静注免疫グロブリン剤を加えた併用治療について、前向きコホートを使い再発率を効果判定指標として評価した。対象は、フランス国内の三次医療の専門病院に紹介受診された18歳以上のSusac症候群と診断された全例である。患者の診断定義は、この症候群の三徴「脳症(MRI上の特徴的な異常所見)、蝸牛前庭障害(片側または両側感音難聴)、および網膜中心動脈枝の複数部位の閉塞または網膜血管炎を認める」を持つ者または「三徴のうち二つ以上を認め他の診断名がついていない」者とした。対象患者に対して、診断時、診断後1、3、6、12ヵ月時点、その後の5年は年1回、そして再発時に、眼底検査、網膜アンギオグラフィー、聴力検査、脳脊髄液、脳MRIの検査を行った。治療評価の転帰は、治療開始から36ヵ月の追跡調査期間中の初回の再発時とした。再発者の判断は、新たな臨床的症状および徴候が認められ、また網膜アンギオグラフィー、聴力検査、または脳MRI上に新たな他覚的異常が認められて治療の強化が必要とされた者とした。
対象となった患者は2011年11月29日 - 2022年12月2日に登録された64例であった。診断時の平均年齢は35歳(SD 11)、性別は女性41例(64%)、男性23例(36%)であった。診断時点にグルココルチコイド治療を受けていた者は60例であった。グルココルチコイド単独治療を一次治療として受けていた者は64例中40例(63%)であった。グルココルチコイドと免疫抑制薬または静注免疫グロブリンの併用治療を受けていた者は20例(31%)であった。追跡期間中に再発した者(初回再発者)は64例中の46例(72%)であった。再発までの期間の中央値は3.96ヵ月(95%CI:2.24 - 16.07)であった。初回再発率は、グルココルチコイド単独治療とグルココルチコイドと免疫抑制薬または静注免疫グロブリンの併用治療の患者の間で有意な差はなかった(ハザード比:1.11、95%CI:0.56 - 2.17、p=0.76)。また、二回目の再発率についても両治療群で有意差は認めなかった(HR:2.66、95%CI:0.63 - 11.18、p=0.18)。本研究はフランス厚生省から資金援助を受けて実施した。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39305913/
コメント
本研究はフランス全国のSusac症候群を対象としたコホート研究である。治療効果の判定を再発率として、グルココルチコイド単独治療とそれにグルココルチコイド剤と免疫抑制剤または静脈内免疫グロブリンを併用した治療について評価をしている。両治療群の間に有意差が認められなかった。つまり、Susac症候群の治療に、グルココルチコイド剤に加えて免疫抑制薬や免疫グロブリン製剤を併用しても治療成績に違いがなかったということである。本研究は、フランス全体のSusac症候群の患者を対象とした追跡調査であり信頼性が高い研究である。両群の治療の厳密な評価のためには多施設ランダム化試験を行って確認することも必要であるとしている。そのためには稀少疾患の治療評価は一つの国の全患者で無作為化対照研究を行ってもサンプルサイズが足りないため、国際共同研究として行う必要があるように思われる。
監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生