難病Update

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cognitive deficitsmajor depressive disorderwhite matter microstructure大うつ病性障害白質微小構造認知障害

2024.11.26

大うつ病性障害者における白質微小構造と認知機能低下との関連性:ドイツにおける前向き症例対照コホート研究から

Associations between white matter microstructure and cognitive decline in major depressive disorder versus controls in Germany: a prospective case-control cohort study

Kira Flinkenflügel*, Susanne Meinert, Christopher Hirtsiefer*, Dominik Grotegerd*, Marius Gruber, Janik Goltermann*, Nils R Winter*, Frederike Stein, Katharina Brosch, Elisabeth J Leehr*, Joscha Böhnlein*, Katharina Dohm*, Jochen Bauer, Ronny Redlich, Tim Hahn*, Jonathan Repple, Nils Opel, Robert Nitsch, Hamidreza Jamalabadi, Benjamin Straube, Nina Alexander, Andreas Jansen, Igor Nenadić, Martijn P van den Heuvel, FOR2107 consortium; Tilo Kircher, Udo Dannlowsk*

 

* Institute for Translational Psychiatry, University of Münster, Münster, Germany.

 

Lancet Psychiatry. 2024 Nov;11(11):899-909. doi: 10.1016/S2215-0366(24)00291-8.

 

大うつ病性障害(MDD)者の主要障害として認知障害がある。MDDが進行すると認知障害が悪化し、これには白質微小構造の変化との関係があると考えられている。そこで、MDD者を対象に白質の変化と認知障害との間に関連があるのか、またMDDの進行との関連があるのか、について前向き追跡調査により検討を行った。

 

本研究はMarburg-Münster Affective Disorders Cohort Studyの前向き症例対照自然観察研究である。症例群は、ドイツのミュンスター及びマールブルク地域の精神病院のMDDと診断された患者である。対照群は、新聞広告により募集した18 - 65歳の白人の健康者である。両群の者に対し、ベースライン時及び2年後の2回に拡散強調画像法及び全般的な神経心理学的検査を実施し、線形混合効果モデルと神経束空間統計(TBSS)を用いて解析した。症例群は418例(47%)であった。平均年齢36.8歳[SD 13.4]、女性が274例[66%]、男性が144例[34%]、対照群は463例(53%)であった。平均年齢35.6歳[SD 13.5]、女性が295例[64%]、男性が168例[36%]であった。

 

ベースラインの検査は2014911- 201963日の間に行った。平均2.20年(SD 0.19)の追跡後である2016106- 2021531日の間に追跡評価を行った。その結果、症例群は評価時点のいずれにおいても認知機能がより低かった(P0.0001sr²=0.056)。拡散強調画像の解析で診断と時間の間に有意な交互作用を認め、症例群の方に上縦束の白質統合性の急速な低下が経時的に認められた(Ptfce-FWE0.026sr²=0.002)。両群ともに認知機能低下は白質統合性の低下及び経時的変化との強い関連が認められた(Ptfce-FWE0.0001sr²=0.004)。白質統合性の変化(P0.0040、β=0.071)ならびにうつ病性障害の不良な経過(P0.0022、β=-0.073)は、症例群において追跡調査時の認知機能の低下と独立して関連していた。症例群では白質統合性による大きな変化が経時的に認められた。白質微小構造及びうつ病の進行が認知障害との関連があることが示された。治療薬開発の重要な標的は、白質微小構造であることが示唆された。本研究はドイツ研究振興協会(DFG)の資金援助を受けた。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39419563/

コメント

大うつ病性障害の最も負担の大きい症状は認知障害で、脳内の白質微小構造と関連があることを、成人の全年齢層の十分なうつ病患者を対象として、白質微小構造変化との関連性があることを示した初めての縦断研究であった。うつ病患者の白質構造の変化は急激で、認知機能低下と白質機能低下との間に強い関連が認められたとしている。今後、もっと追跡期間を長くし、評価ポイント数を増やして確かめる必要があるが、認知障害の将来予測にはうつ病の経過と白質の統合性変化が独立している要因と考えられた。本研究の結果から、MDDの治療薬は白質微小構造をターゲットにすることが開発につながる可能性があるとしている。白質微小構造の変化がなぜ起こるのかなど神経メカニズムついてはまだわからないことが多く、この方面のさらなる研究が求められる。

 

監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

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