2024.12.25
母になることへの希望:同種造血幹細胞移植後の妊娠(全国多施設共同研究)
Hope for motherhood: pregnancy after allogeneic hematopoietic cell transplantation (a national multicenter study)
Katja Sockel*, Annika Neu, Maren Goeckenjan, Markus Ditschkowski, Inken Hilgendorf, Nicolaus Kröger, Francis A. Ayuk, Friedrich Stoelzel, Jan Moritz Middeke*, Matthias Eder, Wolfgang Bethge, Jürgen Finke, Hartmut Bertz, Guido Kobbe, Martin Kaufmann, Uwe Platzbecker, David Beverungen, Christoph Schmid, Malte von Bonin*, Katharina Egger-Heidrich*, Lisa Heberling*, Karolin Trautmann-Grill*, Raphael Teipel*, Gesine Bug, Johanna Tischer, Alessia Fraccaroli, Matthias Fante, Daniel Wolff, Thomas Luft, Julia Winkler, Kerstin Schäfer-Eckart, Christof Scheid, Udo Holtick, Stefan Klein, Igor Wolfgang Blau, Andreas Burchert, Gerald Wulf, Justin Hasenkamp, Rainer Schwerdtfeger, Stephan Kaun, Christian Junghanss, Friederike Wortmann, Susann Winter*, Helga Neidlinger, Catrin Theuser*, Jan Beyersmann, Martin Bornhaeuser*, Sandra Schmeller, Johannes Schetelig*
* Department of Internal Medicine I, University Hospital Dresden, Technical University Dresden, Dresden, Germany.
Blood. 2024 Oct 3;144(14):1532-1542. doi: 10.1182/blood.2024024342.
同種造血幹細胞移植(alloHCT)後の長期生存率の改善により、若年成人のがんサバイバーにとっての家族計画が重要なテーマとなっている。しかしながら、この治療に関連する不妊リスクは、alloHCT治療を受けた女性に難題をもたらす。本研究では、現代コホートにおける妊娠率および出生率を評価するため、2003 - 2018年にalloHCTを受けた18 - 40歳の成人女性を対象として、German Transplant Registryのデータを用いて全国多施設共同研究を実施した。
alloHCTを受けた女性2,654例の中で50例が74回の妊娠を経験し、その中央値は移植後4.7年であった。これら74件中、57件(77%)が生児出産に至った。alloHCTレシピエントにおける年間初回出生率は0.45%であり、この数値は一般集団と比べて6倍以上低かった。alloHCT後10年における生児出産の確率は3.4%であった。妊娠率上昇に関連する因子は、若年でのalloHCT、悪性腫瘍以外の疾患に対する移植、全身照射なしまたは累積線量8 Gy未満、ならびに骨髄非破壊的前処置/強度減弱前処置であった。重要なこととして、妊娠の72%は自然妊娠であり、それ以外は生殖補助医療によるものであった。早産および出生時低体重は、一般集団と比べて多くみられた。
本研究は、alloHCT治療を受けた成人女性コホートにおける妊娠について報告したデータセットとして最大のものである。本研究の結果は、alloHCT治療を受けた患者において十分に妊娠の機会があることを明確に示した。生殖補助医療技術は重要であり、資金援助を受けられるようにすべきである。しかし、自然妊娠の可能性を過小評価すべきでなく、患者に対しては、妊孕性が低下しているとしても予期しない自然妊娠の可能性があることを知らせるべきである。それぞれの前処置が妊孕性温存に対して及ぼす影響を明かにするために、さらなる研究が必要である。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39007722/
コメント
造血器腫瘍や造血不全などの造血器疾患が難治性である場合、同種造血幹細胞移植(alloHCT)はそれらに対するきわめて有用な治療法となる。その手法やそれに用いることのできる薬剤の進歩、また、感染症対策などの支持療法の充実などにより、alloHCT後の長期生存者が増加している。長期生存者の増加、つまり、生命予後の改善がもたらされれば、次の課題として、患者の社会生活の質や満足度の改善があげられる。これに関連して、挙児希望の患者にとって、alloHCT治療後の妊娠の可能性は大きな関心事である。本論文においては、alloHCT後の妊孕性についての研究成果が述べられており興味深い。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生