2024.12.25
特発性脳内出血患者に対する手術後のアセチルサリチル酸の早期投与と晩期投与の安全性および有効性の比較(E-start試験):中国における多施設共同前向き非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験
Safety and efficacy of early versus delayed acetylsalicylic acid after surgery for spontaneous intracerebral haemorrhage in China (E-start): a prospective, multicentre, open-label, blinded-endpoint, randomised trial
Qingyuan Liu*, Shaohua Mo*, Jun Wu*, Xianzeng Tong, Kaiwen Wang, Xu Chen, Shanwen Chen, Shuaiwei Guo*, Xiong Li, Mingde Li, Lei Peng, Xinguo Sun, Yang Wang, Jianjun Sun, Jun Pu, Kaige Zheng*, Jiaming Zhang*, Yang Liu*, Yi Yang*, Zheng Wen*, Xin Nie*, Yinghe Feng*, Chuanjin Lan*, Haishuang Tang*, Nuochuan Wang, Jiangan Li, Zengli Miao, Xiaojie Lu, Bo Ning, Bing Zhao, Dezhi Kang, Xiaolin Chen*, Yanan Zhang, Yan Zhang*, Anxin Wang, Chengcheng Zhu, Yoshio Araki, Kenji Uda, Shinichi Yoshimura, Kazutaka Uchida, Takeshi Morimoto, Hideyuki Yoshioka, David Hasan, Rose Du, Michael R Levitt, Yong Cao*, Shuo Wang, Jizong Zhao*; E-start collaborators
* Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, China National Clinical Research Center for Neurological Diseases, Capital Medical University, Beijing, China.
Lancet Neurol. 2024 Dec;23(12):1195-1204. doi: 10.1016/S1474-4422(24)00424-1.
非外傷性脳内出血患者は術後に重大で有害な心血管、脳血管、および末梢血管イベントのリスクが高く、それが致死症となる場合がある。特発性脳内出血患者に対して術後の虚血イベントを予防することに抗血小板薬療法が効果的であるが、術後の最適投与時期が明らかにされていない。本研究は特発性脳内出血の手術後に、抗血小板薬であるアセチルサリチル酸を早期開始する場合と晩期開始する場合の安全性および有効性を比較するために行った。
本研究は、中国の脳卒中治療センター8施設の多施設共同前向き非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験(The Early Acetylsalicylic Acid After Surgical Treatment in Patients with Spontaneous Intracerebral Haemorrhage[E-start]試験、ClinicalTrials.gov番号:NCT04820972)である。研究対象者は、2021年5月1日 - 2023年5月1日の患者7,323例から、年齢が18 - 70歳、特発性脳内出血に対する血腫除去を目的とした手術を受けた患者、ならびに術後虚血イベントのリスクが高い患者をスクリーニングし269例(4%)を抽出し、134例を早期開始群、135例を晩期開始群に無作為に割り付けた。患者の割り付けはオンライン無作為化システムの最小化法を用いて、患者を1:1の比で、アセチルサリチル酸100 mg 1日1回を早期に開始する群(術後3日目から90日目までに開始)または晩期に開始する群(術後30日目から90日目までに開始)に割り付けた。試験薬の投与は経口または栄養チューブで行った。主要有効性評価項目は90日以内に新規に発生した重大な虚血性心血管、脳血管、または末梢血管イベントの複合、また主要安全性評価項目は90日以内に発現した全頭蓋内出血とし、intention-to-treat集団で評価した。
分析患者は、男性が195例(72%)、女性が74例(28%)、年齢中央値は60.2歳(四分位範囲[IQR]52.0 - 66.5)であった。多くの患者(269例中170例[63%])の血腫は小脳テント上の深部に認められた。術後90日以内に重大な虚血性心血管、脳血管または末梢血管イベントが発現したのは、早期開始群で134例中27例(20%)、晩期開始群で135例中42例(31%)であった(オッズ比0.56、95%信頼区間[CI]0.32 - 0.98、p=0.041)。頭蓋内出血が発現したのは、早期開始群で134例中1例(1%)、晩期開始群で135例中4例(3%)であった。出血以外の重篤な有害事象が発現したのは、早期開始群で134例中57例(42%)、晩期開始群で135例中57例(42%)であった。
中国人患者の特発性脳内出血に対して術後3日目からアセチルサリチル酸療法を開始した場合、術後30日目から開始した場合と比べて、重大な虚血性心血管、脳血管または末梢血管イベントの発現が少なく、頭蓋内出血のリスクに上昇は認められなかった。本研究はNational Key Research and Development Program of Chinaから資金援助を受けて行った。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39577920/
コメント
特発性脳内出血とは、外傷、高血圧、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、出血傾向など出血原因が明確でない脳内出血のことである。その原因としてsmall angiomatous malformation(SAM)あるいはmicro angiomaの存在によるとの指摘があるがまだ不明である。本研究は、特発性脳内出血の術後の患者に対してアセチルサリチル酸療法を早期開始した方が遅れて行った場合より主要な心血管、脳血管、および末梢血管イベント及び出血リスクが低下することを初めてのランダム化比較試験で示したものであった。
ただし、本研究は、対象者が中国人に限られていること、外科治療を受けた患者のみを対象としていること、安全性評価は出血イベントのみであること、長期追跡後に発生する晩期の虚血性または出血性イベントまでみていないことなどの限界を有している。
そのため、自然発生性脳内出血の地域や手術していないすべての患者に対してアセチルサリチル酸療法を早期に開始することが臨床転帰を改善し、安全であるのかどうかについてはさらなる研究を行い確認する必要がある。
監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生