難病Update

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childrenhealth-care systemsneurological sequelaeTuberculous meningitis医療体制小児神経学的後遺症結核性髄膜炎

2025.01.30

2019年の0 - 14歳の小児の結核性髄膜炎の世界的負担の推計

Global burden of tuberculous meningitis in children aged 0 - 14 years in 2019: a mathematical modelling study

Karen du Preez*, Helen E Jenkins, Leonardo Martinez, Silvia S Chiang, Sicelo S Dlamini, Mariia Dolynska, Andrii Aleksandrin, Julia Kobe, Stephen M Graham, Anneke C Hesseling*, Jeffrey R Starke, James A Seddon*, Peter J Dodd

* Desmond Tutu Tuberculosis Centre, Department of Paediatrics and Child Health, Stellenbosch University, Cape Town, South Africa. Electronic address: karendp@sun.ac.za.

Lancet Glob Health. 2025 Jan;13(1):e59-e68. doi: 10.1016/S2214-109X(24)00383-8.

結核性髄膜炎は、治療しなければ致死率が高く、生存したとして神経学的後遺症を残す可能性が高い疾患であるが、小児の罹患者が世界に何人いるのかのデータはない。そこで、2019年時点の小児の結核性髄膜炎の世界の疾患負担および同疾患の死亡率を、WHOの地域別、年齢群別、治療状態、およびHIV感染状況別に、文献データのメタアナリシスによる数値をもとにベイズ数学モデルを用いて推定した。推計したのは結核感染後の結核性髄膜炎発症リスク、結核登録患者(各国がWHOに報告する定期報告データ)における結核性髄膜炎の割合、および結核性髄膜炎の年齢群別の死亡リスク比である。国のデータとしては、ブラジル、米国、ウクライナ、南アフリカ、および欧州疾病予防管理センター(ECDC)(29か国を一地域と見なして集計)からのものを用いた。結核性髄膜炎の年齢群別およびHIV感染状況別に死亡率の推定にあたり、結核登録者と結核発見者および治療者の人数はほぼ同じであると仮定している。年齢群別、HIV感染状況別にみても結核性髄膜炎患者の未治療者の致命はとても高かった。治療を受けて生存した小児の神経学的後遺症の年齢別有病リスク比は、死亡児でも同じであると推定している。

2019年の15歳未満の小児の結核性髄膜炎の推定発症者数は24,000人(95%CI:22,300 - 25,700)で、その中で診断および治療を受けた推定小児患者数は13,000人(95%CI:12,100 - 13,900)であった。未治療小児患者のほとんどが5歳未満の年齢の者であった。2019年の結核性髄膜炎の推定小児患者24,000人についてみると、死亡者が16,100人(95%CI:14,900 - 17,300)、死亡者の1,101人(6.8%)はHIVを合併した者と推定された。推定死亡者16,100人の中で5歳未満の小児が13,380人(83.1%)を占めていると計算された。死亡者の中で治療を受けていない者が11,000人(68.3%)と推定された。生存した小児7,900人(95%CI:5,800 - 10,000)の中で5,550人(95%CI:5,110 - 5,980)が神経学的後遺症を有していると推定された。

URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39706662/

コメント
小児結核性髄膜炎は致死率が高く、罹患率も高いが、世界中で毎年何人が結核性髄膜炎を発症しているのかのデータは乏しく、また世界や地域別の推定値は提供されていない。本研究は、世界全体の結核性髄膜炎の15歳未満の小児の患者数とその転帰に関する数値を推定した最初の研究である。2019年において、24,000人の小児が結核性髄膜炎を発症し、そのうち11,000人は治療を受けていなかったと推定された。小児罹患者の16,100人が死亡し、生存した罹患者の5,550人が神経学的後遺症を患ったと推定された。罹患者の年齢は5歳未満の者がほとんどであったと推定している。結核性髄膜炎は早期に診断し治療することで改善が期待できる。また出生時のBCG接種や感染後の結核の発症予防治療を行うことにより結核性髄膜炎の罹患者を減らすことが可能とされている。そのために日本では小児の結核性髄膜炎の発症者を少なくするために乳児期のBCGが定期接種として続けられている。さらにBCG接種によりコッホ反応を呈した者に対しては発症予防のために予防的治療が実施されている。しかし、世界的には、結核性髄膜炎は結核の定期報告において結核統計の中で区別されていないようである。世界において、結核性髄膜炎予防のためにあらゆる手段が講じられているとは言えない状況にある。結核性髄膜炎は優先されるべき世界的な公衆衛生課題であることからその診断ツールの開発や効果的な医療体制や管理体制をつくるための研究が必要である。

監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

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