難病Update

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antibody response durabilitymegakaryocyteplateletthrombopoietin (TPO)Vaccine

2025.01.30

ヒトにおける複数のワクチンに対する抗体反応持続の予測因子および機序についてのシステムワクチン学解析

System vaccinology analysis of predictors and mechanisms of antibody response durability to multiple vaccines in humans

Mario Cortese*, Thomas Hagan, Nadine Rouphael, Sheng-Yang Wu*, Xia Xie*, Dmitri Kazmin*, Florian Wimmers *, Shakti Gupta, Robbert van der Most, Margherita Coccia, Prabhu S. Aranuchalam*, Helder I. Nakaya, Yating Wang, Elizabeth Coyle, Shu Horiuchi, Hanchih Wu, Mary Bower, Aneesh Mehta, Clifford Gunthel, Steve E. Bosinger, Yuri Kotliarov, Foo Cheung, Pamela L. Schwartzberg, Ronald N. Germain, John Tsang, Shuzhao Li, Randy Albrecht, Hideki Ueno, Shankar Subramaniam, Mark J. Mulligan, Surender Khurana, Hana Golding, Bali Pulendran

Institute for Immunity, Transplantation and Infection, School of Medicine, Stanford University, Stanford, CA, USA.

Nat Immunol. 2025 Jan;26(1):116-130. doi: 10.1038/s41590-024-02036-z. Epub 2025 Jan 2.

本研究では、抗体反応の大きさと持続性に影響を及ぼす因子を同定する目的でシステムワクチン学的解析を行い、AS03アジュバントがある場合とない場合とでヒトにおけるH5N1型インフルエンザワクチンに対する免疫反応について検討した。システムワクチン学(Systems vaccinology)は、ワクチン接種に対して免疫反応を惹起させる細胞および分子ネットワークの包括的な解析を可能にするもので、これまで黄熱、季節性インフルエンザ、その他におけるワクチン接種に対する抗体反応を予測する分子シグネチャーとその基礎にある新たな機序が明らかにされてきた。

解析の結果、ワクチン接種後7日目の血小板および粘着に関連する血中転写シグネチャーが、抗体反応の持続期間を予測することが分かり、このことから血小板が抗体反応の持続性に関与する可能性が示唆された。血小板は巨核球に由来することから、トロンボポエチン(TPO)が介在する巨核球活性が抗体反応の持続性に及ぼす作用を検討した。その結果、TPOの投与によって、ワクチンが誘導した抗体反応の持続期間が延長した。TPOにより活性化された巨核球は、ヒト骨髄形質細胞(BMPC)の生存を促進し、これはインテグリンβ1/β2が仲介する細胞間相互作用、ならびに生存に関与する因子APRILおよびMIF-CD74軸の介在によるものであった。さらに、機械学習を用いて、上記の血小板関連シグネチャーに基づく分類子を作成したところ、7件の独立した試験の6つのワクチンにおける抗体反応の持続性を予測した。

以上の結果から、ワクチンに対する抗体反応の持続性を正確に予測できる分子シグネチャーと、これまで不明であったヒトにおけるワクチン接種後の抗体の持続性を説明する生物学的機序が明らかになった。

URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39747435/

コメント
ウイルスや細菌に対するワクチンの効果持続期間はワクチンの種類によりまちまちで季節性インフルエンザやCOVID-19に対するワクチンのように数カ月程度しか効果が持続しないものもあれば麻疹、風疹、黄熱病のように10年以上効果が持続するものもある。この差のメカニズムについては重要な未解決問題である。

今回は比較的効果の持続期間が短いとされているインフルエンザワクチンでの研究が主で、まずはアジュバント(AS03)ありとなしで比較しアジュバントありの方で有意に効果の延長が見られた。次にアジュバントあり群でワクチン後6ヵ月時点でも抗体が検出された例とされなかった例との比較検討が行われた。ワクチン7日目の遺伝子解析の結果血小板、骨髄巨核球に関する遺伝子の発現量が効果持続例で多く見られ、in vitro、マウスin vivoの研究で骨髄巨核球が抗体産生に係わる骨髄形質細胞の生存を促進するということを明らかにした。比較的効果持続期間が短いとされている他のワクチンについても遺伝子解析の結果から同様な傾向にあることも示した。これまで血小板、巨核球と抗体産生への関りが議論になったことがなかったためかなりの驚きを感じた。巨核球の活性化を促進させるアジュバントの開発も期待される。ただし終生免疫とされる黄熱病ワクチンには当てはまらないということでまだ明らかになっていないメカニズムの存在があることも示しておりさらなる研究の進展が望まれる。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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