2025.02.28
切除不能膵臓癌において、多機能型Wilms’ tumor 1(WT1)ペプチドをパルスした樹状細胞ワクチンと多剤化学療法の併用療法は腫瘍微小環境を修飾しコンバージョン手術を可能にする
Dendritic cells pulsed with multifunctional Wilms’ tumor 1 (WT1) peptides combined with multiagent chemotherapy modulate the tumor microenvironment and enable conversion surgery in pancreatic cancer
Shigeo Koido*, Junichi Taguchi, Masamori Shimabuku, Shin Kan*, Tuuse Bito, Takeyuki Misawa, Zensho Ito, Kan Uchiyama, Masayuki Saruta, Shintaro Tsukinaga, Machi Suka, Hiroyuki Yanagisawa, Nobuhiro Sato, Toshifumi Ohkusa, Shigetaka Shimodaira, Haruo Sugiyama
*Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Internal Medicine, The Jikei University Kashiwa Hospital, Kashiwa, Japan shigeo_koido@jikei.ac.jp.
J Immunother Cancer. 2024 Oct 8;12(10):e009765. doi: 10.1136/jitc-2024-009765.
背景 本研究の目的は、新規Wilms’ tumor 1(WT1)ペプチドをパルスした樹状細胞(dendritic cell)ワクチン(WT1-DCワクチン)と多剤化学療法を併用する化学免疫療法レジメンを開発し、そして、切除不能進行期膵管線癌(unresectable advanced pancreatic ductal adenocarcinoma: UR-PDAC)患者を対象にその安全性、臨床転帰、およびWT1特異的免疫応答を検討することである。
方法 本第I相試験に、UR-PDAC患者10例、つまり、ステージIIIの局所進行(locally advanced)PDAC患者(LA-PDAC)6例、ステージIVの転移(metastatic)PDAC患者(M-PDAC)3例、術後再発患者1例が登録された。それらの患者に対して、ナブパクリタキセル+ゲムシタビン療法1サイクル実施後に、その後の化学療法の続行あるいは中止にかかわらず、WT1-DCワクチンを15回投与した。新規WT1ペプチドの構成成分は、主要組織適合抗原(MHC)クラスII、ヒト白血球抗原(HLA)-A*02:01、またはHLA-A*02:06に特異的な多機能型ヘルパーペプチド、およびHLA-A*24:02に特異的なキラーペプチドであった。
結果 本化学免疫療法の忍容性は良好であった。予後解析が可能な患者9例では、WT1ペプチド特異的遅延型過敏(delayed-type hypersensitivity)反応(WT1-DTH)が長期間陽性の患者4例の臨床転帰は、WT1-DTHが短期間陽性の患者5例のそれよりも有意に良好であった。この化学免疫療法中に、患者8例がコンバージョン手術に適格となる可能性が考えられた。結果、LA-PDAC患者4例、M-PDAC患者1例、再発患者1例の合計6例がR0切除を、M-PDAC患者1例がR1切除を受け、一方、LA-PDAC患者1例が切除不能と判断された。R0切除を受けたLA-PDAC患者4例中3例で長期のWT1-DTH陽性が認められた。これら3例には、膵臓の腫瘍微小環境(tumor microenvironment: TME)中にT細胞およびプログラム細胞死タンパク質-1(PD-1)陽性細胞の著明な浸潤が認められた。長期にWT1-DTH陽性を認めた全患者が治療開始後4.5年以上生存した。ワクチン2回接種後におけるIFN-γまたはTNF-αを産生するWT1特異的CD4陽性またはCD8陽性T細胞の血中における割合は、長期にWT1-DTHが陽性であった患者のほうが短期間のみWT1-DTHが陽性であった患者よりも有意に高かった。さらに、12回のワクチン接種後の血中における制御性T細胞および骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の割合は、いずれも、長期にWT1-DTHが陽性であったPDAC患者のほうが短期間のみWT1-DTHが陽性であった患者よりも有意に低かった。
結論 UR-PDAC患者において、WT1-DCワクチンを含む化学免疫療法併用レジメンによるWT1特異的免疫応答の強力な活性化は、TMEを修飾してコンバージョン手術を可能にし、その結果、臨床的有用性をもたらす。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39384197/
コメント
膵臓癌は、早期に発見されることが少ないこともあり、難治性となる場合が多い。治癒を目指した手術ができない時は、化学療法などによる治療手段があるが、その場合は、長期生存や治癒は困難となる場合が多い。
本研究においては、治癒切除不可能な膵臓癌患者に対して化学療法を行う時に癌抗原WT1を標的とした樹状細胞療法(樹状細胞ワクチン)を加えることにより多くの患者が治癒を目指した手術が可能(コンバージョン手術)となった臨床結果が示されている。WT1は多くの固形癌や造血器腫瘍で発現がみられ、最も優れた癌抗原(つまり、癌免疫療法の標的抗原)のひとつであると認識されており、WT1に対する免疫応答やWT1を標的とした癌免疫療法に関する多くの研究成果が発表されている。また、樹状細胞療法は癌免疫療法の手段として一定の実績のある治療法であり、樹状細胞に癌抗原を発現させて樹状細胞ワクチンを作るには癌抗原タンパク由来ペプチドや癌抗原タンパクをコードするメッセンジャーRNAなどが用いられる。
ここでは、患者から取り出した末梢血と複数のWT1タンパク由来ペプチドを用いてWT1特異的免疫反応を誘導できる樹状細胞(WT1-dendritic cell: WT1-DC)を作成し、そのWT1-DCを患者に注射することによりWT1特異的免疫応答を誘導している。『従来の化学療法』と『免疫療法であるWT1-DCワクチン』の併用による治療効果増強(コンバージョン手術を可能にできる臨床的有用性)だけでなく、その裏付けになると考えられる患者体内での癌免疫応答も併せて解析されており、非常に興味深い。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生