Johan H Thygesen*, Huayu Zhang, Hanane Issa, Jinge Wu, Tuankasfee Hama, Ana-Caterina Phiho-Gomes, Tudor Groza, Sara Khalid, Thomas R Lumbers, Mevhibe Hocaoglu, Kamlesh Khunti, Rouven Priedon, Amitava Banerjee, Nikolas Pontikos, Chris Tomlinson, Ana Torralbo, Paul Taylor, Cathie Sudlow, Spiros Denaxas, Harry Hemingway, Honghan Wu; CVD-COVID-UK/COVID-IMPACT Consortium
* Institute of Health Informatics, University College London, London, UK. Electronic address: j.thygesen@ucl.ac.uk.
Lancet Digit Health. 2025 Feb;7(2):e145-e156. doi: 10.1016/S2589-7500(24)00253-X.
COVID-19パンデミック時における数百にのぼる希少疾患を有する者における有病率や臨床的リスクを検討した研究が存在していない。本研究は全イングランドの約5,800万人の電子カルテ(EHR)をもとに希少疾患に関するCOVID-19関連死を検討したものである。具体的には、2020年1月23日時点に生存していた者の情報を9つの英国国民保健サービス(NHS)データセットとリンクして分析した。希少疾患に関するオンラインデータ(Orphanet)の疾患からICD-10またはSystemized Nomenclature of Medicine-Clinical Termsを参照して331疾患を選択した。331の希少疾患の有病率を計算し、臨床的・人口統計学的にCOVID-19関連の死亡率を計算した。COVID-19関連死亡の評価は、各疾患・各疾患カテゴリーに分け、また年齢、性別、民族、ワクチン接種の有無別に分けて、患者と1:2の比率でマッチさせた対照と比較することにより行った。
対象人口集団58,162,316人中において1つ以上の希少疾患を有していたのは894,396人であった。これらの者の2020年9月1日 - 2021年11月30日のCOVID-19関連死を分析した。331の希少疾患(Orphanetに推定有病率が掲載されていない186(56.2%)疾患を含む)の死亡を年齢と性別で補正した。性別では、49の疾患で女性の方が有意に多く、62の疾患で男性の方が有意に多かった。また、人種別では、47の疾患でアジア人・アジア系英国人の方が白人より有意に多く、22の疾患で黒人または黒人系英国人の方が白人より多かった。37の疾患で白人の方が多かった。
COVID-19による死亡者は894,396人中7,965人(0.9%)であった。全人口58,162,316人では141,287(0.2%)であった。COVID-19関連死のリスクは完全なワクチン接種者であっても8つの希少疾患者においては有意に高かった。特に水疱性類天疱瘡のリスクが高く、ハザード比は8.07(95%CI 3.01 - 21.62)であった。軽視されることの多い患者集団に対する公衆衛生上の政策の根拠を得るためには全国規模のEHRなどのデーターソースが重要であることを示したものであった。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39890245/
コメント
希少疾患の患者におけるCOVID-19の重症度を調査した研究は少なく、あっても単一または少数の希少疾患に焦点を当てたものであった。希少疾患の患者におけるワクチン接種の死亡率への影響をみたものも少ない。本研究は、イングランドの全国規模の電子健康記録データを使用した研究であり、331の希少疾患について、年齢と性別を調整して有病率とCOVID-19の関連死を検討したものであった。COVID-19関連死と希少疾患との臨床的関連性が示され、またワクチン接種をしていた者であっても8つの希少疾患者においてCOVID-19の死亡リスクが増加していることを示している。COVID-19による臨床的リスクの高い者を特定した対策や支援が必要であるが、そのためには全国規模の患者のデーターソースが必要であるとしている。しかし、日本ではまだ人口全体をカバーする死亡リスクを分析できるデーターソースはないのでこの種の研究が行えないのが残念である。
監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生