2025.03.25
アスピリンは血小板TXA2によるT細胞免疫の抑制を抑えることで転移を予防する
Aspirin prevents metastasis by limiting platelet TXA2 suppression of T cell immunity
Jie Yang*, Yumi Yamashita-Kanemaru, Benjamin I. Morris, Annalisa Contursi, Daniel Trajkovski, Jingru Xu, Ilinca Patrascan, Jayme Benson, Alexander C Evans, Alberto G Conti, Aws Al-Deka, Layla Dahmani, Adnan Avdic-Belltheus, Baojie Zhang, Hanneke Okkenhaug, Sarah K Whiteside, Charlotte J Imianowski, Alexander J Wesolowski, Louise V Webb, Simone Puccio, Stefania Tacconelli, Annalisa Bruno, Sara Di Berardino, Alessandra De Michele, Heidi C E Welch, I-Shing Yu, Shu-Wha Lin, Suman Mitra, Enrico Lugli, Louise van der Weyden, Klaus Okkenhaug, Kourosh Saeb-Parsy, Paola Patrignani, David J Adams, Rahul Roychoudhuri
* Department of Pathology, University of Cambridge, Cambridge, UK. jy437@cam.ac.uk.
Nature. 2025 Mar 5. doi: 10.1038/s41586-025-08626-7. Online ahead of print.
転移とは、がん細胞の原発腫瘍から遠隔臓器への拡散を意味し、世界的ながんによる死亡の原因の90%を占める。転移がん細胞は特に免疫系による攻撃に弱いが、それはこれらの細胞が、もともと確立された腫瘍内で免疫抑制状態にある微小環境から分離されてしまったためである。転移リスクのある早期がん患者において再発を予防するために、免疫に対するこうした脆弱性を標的として治療薬を探索することは興味深い。
本研究では、アスピリンを含むシクロオキシゲナーゼ1(COX-1)阻害薬が、血小板におけるトロンボキサンA2(TXA2)の産生を抑制し、TXA2によるT細胞の抑制を解除することでがん転移に対する免疫を増強することを示した。TXA2がT細胞を抑制する機序は、グアニン交換因子ARHGEF1に依存する免疫抑制経路の活性化により、T細胞のT細胞受容体(TCR)誘発キナーゼシグナル伝達、増殖、およびエフェクター機能を抑制するというものである。
マウスにおいてArhgef1のT細胞特異的な条件付き欠失を行ったところ、転移部位においてT細胞活性化を亢進させ、肺および肝臓における転移の免疫介在性拒絶を誘発した。さらに、アスピリン、選択的COX-1阻害薬、または血小板特異的COX-1欠失を用いてTXA2の利用を抑制したところ、マウスのin vivoでTXA2によるT細胞特異的なARHGEF1の発現およびシグナル伝達依存的に転移率が低下した。
これらの結果から、がん転移に対するT細胞免疫を抑制する新規の免疫抑制経路が明らかになり、アスピリンの抗転移活性の機序に関する洞察が得られ、いっそう効果的な抗転移免疫療法薬への道が開かれた。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40044852/
コメント
メタ解析でCOX阻害作用があるアスピリンががんの転移抑制効果があることや、大腸がんでアスピリンを使用した群としていなかった群の比較で、アスピリン使用群の中で腫瘍細胞でのHLA class Iの発現が高かったサブグループで有意に生存率が高くなっていたこと、などからアスピリンとT細胞性免疫増強との関連が示唆されていたが詳細は不明であった。本研究では血小板由来のトロンボキサンA2(TXA2)がT細胞に抑制的に働くこと、またそのシグナル経路を明らかにした。またアスピリンによるTXA2の産生抑制がT細胞の活性化に寄与することを示した。
今までTXA2は強力な血小板凝集惹起作用と血管収縮作用を持ち二次凝集に重要な役割を持つことやアレルギー反応惹起するmediatorの一つとして認知されていたが本研究により新たな機能が明らかにされたと考えられる。低用量アスピリンはすでに血栓予防として使われている安価な薬ということで固形癌の抗癌治療薬に加えての使用で転移抑制を含め治療効果の向上が期待される。これを実証するための臨床試験が待たれる。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生