難病Update

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next-generation sequencingplasma neurofilament light chain analysisrepeat expansion screeningsporadic adult-onset degenerative ataxiaリピート伸長スクリーニング検査成人発症孤発性脊髄小脳変性症次世代シークエンシング検査血漿ニューロフィラメント軽鎖解析

2025.05.28

成人発症の孤発性脊髄小脳変性症の遺伝的背景:多施設共同縦断的SPORTAXコホートにおける発生患者377例の多面的遺伝学研究

The genetic landscape of sporadic adult-onset degenerative ataxia: a multi-modal genetic study of 377 consecutive patients from the longitudinal multi-centre SPORTAX cohort

Danique Beijer*, David Mengel*, Demet Önder, Carlo Wilke*, Andreas Traschütz*, Jennifer Faber, Dagmar Timmann, Sylvia Boesch, Stefan Vielhaber, Thomas Klopstock, Bart P. van de Warrenburg, Gabriella Silvestri, Christoph Kamm, Iselin Marie Wedding, Zofia Fleszar, Florian Harmuth, Claudia Dufke, Bernard Brais, Olaf Rieß, Ludger Schöls, Tobias Haack, Stephan Züchner, David Pellerin, SPORTAX consortium; Thomas Klockgether, and Matthis Synofzik*

 

* Division of Translational Genomics of Neurodegenerative Diseases, Hertie-Institute for Clinical Brain Research and Center of Neurology, University of Tübingen, Germany; German Center of Neurodegenerative Diseases (DZNE), Tübingen, Germany.

 

EBioMedicine. 2025 May:115:105715. doi: 10.1016/j.ebiom.2025.105715. Epub 2025 Apr 23.

 

成人発症孤発性脊髄変性症は、アルツハイマー病、筋委縮性側索(ALS)やパーキンソン病などと異なり、特定の単一遺伝子性負荷が大きい疾患と考えられている。本研究は信頼できる多施設共同コホートにおいて発症した孤発性脊髄小脳変性症の成人症例の多面的遺伝子スクリーニング検査により縦断的、系統的に遺伝的背景を検討したものである。

 

対象として患者は多施設共同前向き縦断コホート(SPORTAXコホート)において発症した孤発性脊髄小脳変性症患者377例である。その内訳は、原因不明の成人発症の孤発性脊髄小脳変性症(SAOA)患者229例と小脳型多系統萎縮症のほぼ確実患者(clinically probable multiple system atrophy of cerebellar type)(MSA-Ccp148例である。これらの者に対して、次世代シークエンシング(NGS)を行い、GAA-FGF14SCA27B)およびRFC1リピート伸長のスクリーニング検査と血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の解析を実施した。成人発症の孤発性脊髄小脳変性症患者377例中の85例(22.5%)に病原性が疑われる遺伝子バリアントが認められた。サブグループ別には、SAOA患者229例中の67例(29.3%)、MSA-Ccp患者148例中の18例(12.2%)に認められた。377例中の45例(11.9%)にGAA-FGF14≥250リピート伸長を認め、MSA-Ccpでは9例に認めた。377例中の17例(4.5%)にRFC1リピート伸長を認め、MSA-Ccpでは3例に認めた。377例中の24例(6.4%)に一塩基バリアント(SNV)を認め、がMSA-Ccpでは6例に認めた。2つの関連する遺伝子バリアントを同時に有していた者(二重診断)は5例(1.3%)あった。

 

成人発症の孤発性脊髄小脳変性症は単一遺伝子性疾患である可能性は低いことが示された。単一遺伝子バリアントとしては、GAA-FGF14およびRFC1リピート伸長の負荷が大きいことが明らかになった。MSA-Ccpの患者がかなりの割合で含まれていることが臨床診断の特異度を下げていた。成人発症の孤発性脊髄小脳変性症にはMSA-Cとは別の遺伝性背景がある可能性が示唆された。MSA様の特徴が認められる症例に対して孤発性脊髄小脳変性症患者の遺伝子検査および遺伝カウンセリングが必要である。標的治療が登場してきている現状において今回の知見は患者の治療を考える上で有用なものであると考えられる。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40273470/

 

コメント

散発性成人発症型運動失調症に対して次世代シーケンシング手法の活用や多施設コホートにより遺伝的な解析をしたものがこれまでなかった。散発性成人発症失調症の遺伝子系列をサブグループに分け、縦断的自然史的に解析したところ単一遺伝子変異の負担が大きい(22%)もののそれ以外の遺伝子変異も関係していることが示唆された。包括的な遺伝子検査を行うことにより、動的リピート伸長を伴う成人発症の遅い運動失調症や常染色体劣性遺伝疾患が説明できたとしている。散発性成人発症型運動失調症の遺伝子スクリーニング検査として、GAA-FGF14およびRFC1リピート伸長の検査を日常的に行うことにより診断精度向上につながるとしている。他方で遺伝カウンセリングの体制を整え、標的治療へのアクセスを高めるなどの課題があるとしている。

 

監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

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