2025.05.28
PHGDHによる転写制御がアルツハイマー病のアミロイド沈着を引き起こす
Transcriptional regulation by PHGDH drives amyloid pathology in Alzheimer’s disease
Junchen Chen*, Fatemeh Hadi, Xingzhao Wen, Wenxin Zhao*, Ming Xu, Shuanghong Xue, Pei Lin*, Riccardo Calandrelli, John Lalith Charles Richard, Zhixuan Song*, Jessica Li, Alborz Amani, Yang Liu, Xu Chen, Sheng Zhong
*Shu Chien-Gene Lay Department of Bioengineering, University of California, San Diego, La Jolla, San Diego, CA, USA.
Cell. 2025 Apr 17:S0092-8674(25)00397-6. doi: 10.1016/j.cell.2025.03.045. Online ahead of print.
65歳以上のほぼすべての人がアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の少なくとも初期の病理を発症しているが、その多くは病原性の遺伝子変異(APP、PSENまたはMAPT)を欠いている。またAPOE4リスクアレルを有していないことも多い。このことは一般集団においてADがどう発症するのかという疑問を提起している。遺伝子転写の異常調節は従来、ADの特徴とはみなされてこなかったが、近年の研究により遅発性アルツハイマー病(Late-onset AD:LOAD)の患者で著明なエピゲノム変化が起きていることが明らかになっている。われわれは、LOADのバイオマーカーであるホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(phosphoglycerate dehydrogenase:PHGDH)の発現変化が、PHGDH自体の酵素活性とは無関係にマウスとヒトの脳オルガノイドにおけるADの病理を制御していることを明らかにした。PHGDHの転写制御における役割は同定されていないが、PHGDHはNF-κB抑制キナーゼαサブユニット(inhibitor of nuclear factor kappa-B kinase subunit alpha:IKKa)とhigh-mobility group box 1(HMGB1)のアストロサイトにおける転写を促進することで、オートファジーを抑制しアミロイド沈着を促進している。また、PHGDHの転写機能をターゲットとした血液脳関門通過性の低分子インヒビターを投与することで、アミロイド沈着が抑制され、AD関連の行動障害が改善された。これらの発見は、LOADにおける転写制御の重要性を明らかにし、また家族性の遺伝子変異以外をターゲットとする治療戦略の可能性を示唆している。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40273909/
コメント
認知症は高齢になるにしたがって増加し、超高齢社会の日本では約460万人(65歳以上の高齢者の約15%)が認知症を患っているとされている。今後高齢化の進展とともにますます認知症患者の増加が予想される。認知症の原因の約3分の2を占めるアルツハイマー型認知症の病態生理の理解と治療法の進展は喫緊の課題である。アルツハイマー型認知症では脳にアミロイドβとタウと呼ばれるたんぱく質がたまり、脳の神経細胞が障害され数が減少していくことが分かっているがなぜこれらが蓄積するかは不明であった。本研究では遅発性アルツハイマー病のバイオマーカーであるPHGDHがアストロサイトにおいて酵素活性ではなく転写調節因子として働きオートファジーを抑制することでアミロイド沈着を促進していることを明らかにした。またPHGHDを阻害する低分子化合物を用いたマウスの疾患動物モデルを用いた実験ではアミロイド沈着が抑制され、行動障害も改善した。病態の解明と治療法のブレイクスルーにつながる可能性を秘めた研究と思われる。今度の進展が期待される。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生