難病Update

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CAR-T細胞療法CD30セントラルメモリーT細胞ホジキンリンパ腫幹細胞メモリーT細胞

2025.06.26

低分化度のT細胞の割合を高めたCAR-T細胞製剤であるHSP-CAR30による治療は、難治性CD30陽性リンパ腫において、より持続的な奏功をもたらす

HSP-CAR30 with a high proportion of less-differentiated T cells promotes durable responses in refractory CD30 + lymphoma

Ana Carolina Caballero*, Cristina Ujaldón-Miró*, Paula Pujol-Fernández*, Rosanna Montserrat-Torres*, Maria Guardiola-Perello*, Eva Escudero-López*, Irene Garcia-Cadenas*, Albert Esquirol*, Rodrigo Martino*, Paola Jara-Bustamante*, Pol Ezquerra, José Manuel Soria, Eva Iranzo*, Maria-Estela Moreno-Martinez, Mireia Riba, Jorge Sierra*, Carmen Alvarez-Fernández*, Laura Escribà-Garcia*, Javier Briones*

*Hematology Service, Hospital de la Santa Creu i Sant Pau, Barcelona, Spain.

 

Blood. 2025 Apr 17;145(16): 1788-1801. doi: 10.1182/blood. 2024026758.

 

CD30を標的としたキメラ抗原受容体T細胞療法(CART30)の再発性または難治性CD30陽性リンパ腫に対する有効性は限定的で、持続的な奏効を認める患者の割合は低い。われわれは、CART30の効能を向上させるための戦略を組み合わせることにより、HSP-CAR30というアカデミア発の細胞療法製剤を開発した。HSP-CAR30は、CD30の不溶領域の近位部位にあるエピトープを標的として認識する。また、本製剤の製造過程において、T細胞の幹細胞性を促進させるために、生体外(ex vivo)でのT細胞の活性化方法を調整すること、インターロイキン(IL-7IL-15とともにIL-21T細胞培養時に添加することなどを行った。われわれは、10名の再発性・難治性の古典的ホジキンリンパ腫(HL)またはCD30陽性T細胞性非ホジキンリンパ腫の患者を対象に、HSP-CAR30の第1相臨床試験を行った。HSP-CAR30細胞は、主に、幹細胞メモリー(memory stem)様(TSCM-like)の、および、セントラルメモリー(TCM)のCAR30陽性T細胞から構成されていた(87.5%±5%)。用量制限毒性は検出されなかった。6名の患者がGrade 1のサイトカイン放出症候群を発症した。また、神経毒性が見られた患者はいなかった。全奏効率は100%であり、HL患者8名のうち5名で完全寛解が得られた。これに加えて1名のHL患者が、2回目のHSP-CAR30投与後に完全寛解に到達した。特筆すべきことに、中央値34ヵ月の追跡期間において、患者の60%で完全寛解が持続していた。CD30キメラ抗原受容体(CAR30)陽性T細胞の増殖ピーク時にはTSCMTCMの細胞が優位であった。また、CAR30陽性T細胞は、投与後少なくとも12ヵ月経過した時点において、評価可能であった5名の患者のうち3名でまだ検出されていた。本研究によって、CD30を標的とするためのエピトープの選択を適切に行い、また、生体外の操作時に低分化度のメモリーT細胞を保持することで、難治性HL患者に対するCART30療法の効果が改善される可能性が示された。本研究はwww.clinicaltrials.govに登録を行った(NCT04653649)。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39841453/

 

コメント

CD19を標的抗原としたCAR-T細胞療法は、難治性のCD19陽性B細胞性造血器腫瘍に対する治療法として、革命的な効果を示した。その後、新たな標的抗原の探索(つまり、適応疾患拡大のための研究)、および、CAR-T細胞療法の効果増強を目指した研究が精力的に行われている。

 

本論文において、前者(新たな標的抗原の探索)については、CAR-T細胞に発現させる受容体に認識させたい抗原のエピトープ部位を適切に選択することによりCD30CAR-T細胞療法における優れた標的抗原となり得ることが示されている。また、後者(効果増強の取り組み)については、CAR-T細胞作製のための培養条件の工夫などによりその細胞製剤中に低分化度のT細胞を保持することが臨床効果の増強につながる可能性が示されている。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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