2025.06.26
Y染色体喪失がパーキンソン病のリスクおよび進行に及ぼす影響
Impact of Ychromosome loss on the risk of Parkinson’s disease and progression
Junhao Wang*, Xinyi Chen*, Wenxuan Du*, Cha Lin*, Yu Liao*, Jean-Christophe Corvol, Jodi Maple-Grødem, Meghan C. Campbell, Alexis Elbaz, Suzanne Lesage, Alexis Brice, Michael A. Schwarzschild, Pille Taba, Sulev Kõks, Guido Alves, Ole-Bjørn Tysnes, Joel S. Perlmutter, Baijayanta Maiti, Jacobus J. van Hilten, Roger A. Barker, Caroline H. Williams-Gray, Clemens R. Scherzer, and Ganqiang Liu*; International Genetics of Parkinson Disease Progression (IGPP) Consortium
* Shenzhen Key Laboratory of Systems Medicine in Inflammatory Diseases, School of Medicine, Shenzhen Campus of Sun Yat-sen University, No. 66, Gongchang Road, Guangming District, Shenzhen, Guangdong, 518107, China; Neurobiology Research Center, School of Medicine, Shenzhen Campus of Sun Yat-sen University, No. 66, Gongchang Road, Shenzhen, Guangdong, 518107, China.
EBioMedicine. 2025 May 29:117:105769. doi: 10.1016/j.ebiom.2025.105769. Online ahead of print.
Y染色体喪失(LOY)は加齢に関連する体細胞変異であり、様々な加齢関連疾患と関連していることが知られている。しかし、パーキンソン病(PD)の発症および進行との関係についてはまだ明らかではない。そこで、血液細胞におけるLOYの頻度をもとに、LOYがPDの発症リスク及び進行と関連があるのかについて検討した。LOYの頻度は、ゲノムワイドアレイ又は全ゲノムシークエンシングを分析し推定した。PDの発症や進行のリスク評価は、UKバイオバンクの男性登録者222,598例についてはCox比例ハザード回帰分析を使い、14のコホートの男性PD患者2,574例(診察19,562件)については線形混合モデル分析を使い計算した。Parkinson’s Progression Markers Initiative(PPMI)コホートの対象者については、T1強調MRIスキャンを用いて脳構造の比較を行い、また安静時機能的MRI(rs-fMRI)のデータセットに基づく脳ネットワーク機能的結合解析を実施した。LOYの評価のために、脳領域5ヵ所の剖検サンプル279個の細胞1,303,531個に単一核RNAシークエンシング(snRNA-seq)および時間的ダイナミック遺伝子発現解析を実施した。
解析の結果、LOYを認める者ではPDの発症リスクはわずかに高かった(HR=1.16、95%CI=1.01 - 1.34、P=0.04)。さらに、PD患者の中でLOYを認める者では、神経変性の急速な進行を認め、運動機能障害の進行(P=0.0072)および認知機能の低下(P=0.0005)が速かった。LOYを認めるPD患者では、一部の脳領域の脳ネットワークの機能的結合の低下が認められた。LOYの細胞は、ミクログリア/免疫細胞、血管・上皮細胞で多く認められた。LOY-Mic P2RY12細胞のある遺伝子群はPD進行との関連が認められた。
臨床表現型、脳神経画像マップ、多脳領域にわたる単一核トランスクリプトームの分子プロファイルなど、マルチスケールデータの解析によりLOYとPDの発症および進行との潜在的な関連があることが明らかになった。つまり、LOYはPDの発症および進行に影響を与える因子の可能性が示唆された。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40446401/
遺伝因子がパーキンソン病(PD)の発症または進行と関連していることが明らかにされてきている。しかし、Y染色体の異常とPDの病態形成との関係については十分に解明されているとは言えない。本研究は、男性のPD患者の造血系のLOYとPDの発症と患者における運動機能および認知機能の低下との関連を、縦断研究として、脳細胞のsnRNA-seqデータ、細胞(ミクログリア、血管細胞)のゲノムや制御経路の分析を行い検討したものである。LOYが男性の加齢のバイオマーカーであると同時にPDの病因にも関与していることが示唆された。つまり、LOYがパーキンソン病の発症と進行に関与している可能性を示唆するものであり、特に男性PD患者の遺伝的な基盤との関連について新たな知見を加えるものである。
監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生