2025.07.29
地域住民における血中リポ蛋白値とアルツハイマー病発症との関連
Framingham Heart Study Association of Blood Lipoprotein Levels With Incident Alzheimer Disease in Community-Dwelling Individuals The Framingham Heart Study
Sokratis Charisis*, Sophia Lu, Jesus David Melgarejo, Claudia L Satizabal*, Ramachandran S Vasan*, Alexa S Beiser, Sudha Seshadri*
*Glenn Biggs Institute for Alzheimer's and Neurodegenerative Diseases, UT Health San Antonio, TX.
Neurology. 2025 Jun 24;104(12):e213715. doi: 10.1212/WNL.0000000000213715. Epub 2025 May 30
心血管危険因子は、アルツハイマー病(AD)発症リスクの重要な寄与因子である。心血管系の健康状態とAD発症リスクとの生理学的関連をさらに探るため、地域で暮らす高齢者を対象に、さまざまな血中リポ蛋白の値とAD発症リスクとの関連を検討した。
対象者は、Framingham Heart Studyの参加者のうち、60歳以上で、認知症がなく、認知機能の追跡調査とリポ蛋白マーカーのデータが入手可能な者とした。1985 - 88年に採取された血液検体の高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)、小型高密度LDL-C(sdLDL-C)、リポ蛋白a(Lp[a])、アポリポ蛋白B(ApoB)、ApoBのアイソフォームであるApoB48の値を測定した。2020年まで参加者のAD発症の有無を調査した。血中リポ蛋白値(連続変数と四分位の両方で示す)とAD発症との関連を、ベースラインの年齢と性別について調整したCox比例ハザードモデルを用いて検討した。
822例(平均[SD]年齢72.5[3.7]歳、女性538例[65.5%])を中央値(四分位範囲)で12.55(7.34 - 15)年間追跡し、この期間に128例がADを発症した。ln(ApoB48)濃度が1 SDU増加するとAD発症リスクが22%低下した(HR 0.78、95%CI 0.66 - 0.93)。HDL-Cの第1四分位群の参加者は、HDL-Cの第2、第3、第4四分位群の参加者と比較して、ADを発症する確率が44%低かった(HR 0.56、95%CI 0.33 - 0.95)。sdLDL-C濃度が中央値を下回った参加者は、sdLDL-C濃度が中央値を上回った参加者と比較して、ADを発症する確率が38%低かった(HR 0.62、95%CI 0.44 - 0.86)。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40446198/
コメント
アルツハイマー病は、脳梗塞などの血管障害を併発すると、階段状に増悪することをよく経験する。それゆえ、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの脳梗塞の危険因子の管理は進行抑制に重要と言われている。一方、コレステロール代謝をつかさどるapolipoprotein E(ApoE)の対立遺伝子ε4が危険遺伝因子であることが明らかになって久しいが、血中脂質の運搬の担い手である、リポ蛋白質を、アルツハイマー病発症への寄与因子として、血中のリポ蛋白濃度を層別化にチェックした報告は、知り得た範囲ではない。今回の検討で、sdLDL-C濃度が低くApoB48濃度が高いことが、AD発症リスクが低いこと、HDL-C濃度が最も低い群の参加者はそれ以外の参加者と比較してADを発症する確率が低かったことなど、リポ蛋白の代謝経路とAD発症リスクとの関連を浮き彫りにした。AD発症リスクの層別化における血中リポ蛋白マーカーの潜在的役割および認知症予防における脂質修飾戦略の潜在的役割が強調された。今後アミロイド構造への血中リポ蛋白の関与、治療効果の評価指標に利用など、発展的研究が楽しみになる報告であり、取り上げた。
監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生