難病Update

難病Update

idiopathic pulmonary fibrosispolygenic risk scorestelomere-related genesテロメア関連遺伝子多遺伝子リスクスコア特発性肺線維症

2025.07.29

特発性肺線維症患者の希少遺伝子変異と生命予後との関連性:多施設共同観察コホート研究と他のコホートでの検証結果から

Rare variants and survival of patients with idiopathic pulmonary fibrosis: analysis of a multicentre, observational cohort study with independent validation

Aitana Alonso-González*, David Jáspez, José M Lorenzo-Salazar, Shwu-Fan Ma, Emma Strickland, Josyf Mychaleckyj, John S Kim, Yong Huang, Ayodeji Adegunsoye, Justin M Oldham, Iain Stewart, Philip L Molyneaux, Toby M Maher, Louise V Wain, Richard J Allen, R Gisli Jenkins, Jonathan A Kropski, Brian Yaspan, Timothy S Blackwell, David Zhang, Christine Kim Garcia, Fernando J Martinez, Imre Noth, Carlos Flores*

 

*Research Unit, Hospital Universitario Nuestra Señora de Candelaria, Instituto de Investigación Sanitaria de Canarias, Santa Cruz de Tenerife, Spain.

 

Lancet Respir Med.. 2025 June;13(6):495-504. doi: 10.1016/S2213-2600(25)00045-1. Epub 2025 Apr 28.

 

特発性肺線維症(IPF)患者において、テロメア関連遺伝子のまれな特定の変異が予後不良と関連があることが知られている。本研究では、単遺伝子性成人発症肺線維症の遺伝子の希少適格変異が生命予後と関連しているのか検証した。また、多遺伝子リスクスコア(PRS)を作成して希少適格変異と頻度の高い変異の影響について評価を試みた。まず、大規模多施設共同観察コホート(Pulmonary Fibrosis Foundation Patient Registry:PFFPR)で2016年3月29日 – 2018年6月15日の間に全ゲノムシークエンシングによりIPFと臨床診断されて登録者された888例を対象としテロメア遺伝子および非テロメア遺伝子の適格変異の特定をした。さらにIPFの既知のセンチネル変異をもとにIPFに対する評価スコアとしてPRS(PRS-IPF)を作成した。主要アウトカムは適格変異と生命予後との関連、副次的アウトカムは適格変異とPRSとの関連とした。ロジスティック回帰モデルを用いて、性別、診断時の年齢を補正して、適格変異とPRSの相互関連性を検討した。Cox比例ハザードモデルを用いて交絡因子を補正して、適格変異およびPRSと生存率との関連を検討した。結果の妥当性の検証のため英国の他の独立した多施設共同前向き観察コホート(PROFILE)における2010年5月17日 - 2017年9月5日に登録されたIPF患者(n=472)を使って確認した。また固定効果モデルによるメタ解析を行った。対象は、FFPRの患者888例、PROFILEの患者472例、合計1,360例であった。PFFPRを使った研究から単遺伝子性成人発症肺線維症遺伝子の適格変異保有者のPRS-IPFが低く(オッズ比1.79、95%CI 1.15 - 2.81、P=0.010)、生存期間が短い(ハザード比1.53、1.12 - 2.10、P=7.33×10-3)という結果が得られた。PRS-IPFが最も低い患者の生存期間が最も短かった(ハザード比1.61、1.25 - 2.07、P=1.87×10-4)。両コホートにおいて一貫して同じ傾向の結果が得られた。IPF患者の希少適格変異と頻度の高い変異との間に生命予後に対して付加的な作用が認められず、両者は異なる疾患のサブタイプである可能性が高いことが示唆された。PRSは、シークエンシングの優先順位を決める指針にできると示唆された。適格変異の有無を評価することとあわせて、PRSを使ったモデル化により、IPF患者の進行予測につなげることができる可能性がある。

 

本研究は、Instituto de Salud Carlos IIIInstituto Tecnológico y de Eenergías RenovablesCabildo Insular de TenerifeFundación DISA、アメリカ国立衛生研究所(NIH)国立心肺血液研究所(NHLBI)、イギリス医学研究審議会(MRC)から資金援助を受けた。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40311650/

 

コメント

肺線維症のコホートの登録患者の分析から単一遺伝子性肺線維症遺伝子の希少適格変異が生命予後と強い関連があることが示唆された。この関連は英国の別の独立したコホートの患者でも確認できた。希少適格変異の保因者はIPFの多遺伝子リスクスコアが低く、希少変異と高頻度変異は疾患の進行に非相加的に影響していると示唆された。テロメア遺伝子と非テロメア遺伝子の両方における希少適格変異は予後の予測の重要なバイオマーカーである。本研究から、患者に対する遺伝子検査は重要であるが、それと同時に多遺伝子リスクスコアを使うことが患者ケアや臨床試験に有用であり、期待できる。

 

監訳・コメント:関西大学社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

一覧へ