難病Update

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chemosensorsolfactory and vomeronasal receptorspalmitic acidTumor associated macrophage (TAM)

2025.07.29

化学受容体は脂質を感知することでマクロファージのがんに対する機能を制御している

Chemosensor receptors are lipid-detecting regulators of macrophage function in cancer

Giulia Marelli*, Nicolò Morina*, Simone Puccio, Marta Iovino, Marta Pandini*, Federica Portale, Mattia Carvetta, Divya Mishra, Elisabetta Diana*, Greta Meregalli*, Elvezia Paraboschi, Javier Cibella, Clelia Peano, Gianluca Basso, Gabriele De Simone, Chiara Camisaschi, Elena Magrini, Giulio Sartori, Elham Karimi, Piergiuseppe Colombo*, Massimo Lazzeri, Paolo Casale, Lavinia Morosi, Giuseppe Martano, Rosanna Asselta*, Eduardo Bonavita*, Hiro Matsunami, Francesco Bertoni, Logan Walsh, Enrico Lugli, Diletta Di Mitri

 

*Department of Biomedical Sciences, Humanitas University, Milan, Italy.

 

Nat Immunol. 2025 Jul;26(7):1182-1197. doi: 10.1038/s41590-025-02191-x. Epub 2025 Jun 30.

 

マクロファージの腫瘍への浸潤はがんの進行を表す特徴であり、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を抗腫瘍的な状態へ再教育することは、免疫療法の戦略として期待されている。しかし、がん細胞がマクロファージの教育に影響を与えるメカニズムは明らかではないため、こうしたアプローチの治療上の可能性は限定的なものにとどまっている。そこで、われわれは一次マクロファージに対して、ゲノムワイドCRISPRスクリーニングを行った。本研究により、TAMを制御する既知の因子を改めて確認されただけではなく、TAM細胞の振る舞いについて新規の知見が明らかになった。われわれは、嗅覚受容体と鋤鼻受容体のような化学受容体が、腫瘍支持性のマクロファージに対する重要な促進因子であると同定した。TAMにおいてこれらの化学受容体をin vivoで選択的に欠失させることで、がんが退縮し、腫瘍反応性のCD8陽性T細胞の浸潤が増加した。また、ヒト前立腺がん組織で、TAMに発現している嗅覚受容体51E2OR51E2)と結合したパルミチン酸が、TAMの腫瘍促進的な表現型への分化を強めていた。空間リピドミクス分析によって、パルミチン酸が前立腺癌においてTAMの近傍に存在していることが確認され、この脂質メディエーターが腫瘍微小環境で果たす役割を裏付けていた。これらのデータは全体として、マクロファージに存在する化学受容体が脂質が豊富な環境を感知していることを示唆しており、こうした化学受容体が抗腫瘍免疫を活性化する際の治療ターゲットとなりうることを示唆している。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40588561/

 

コメント

腫瘍随伴マクロファージ(TAM)が腫瘍環境内において免疫抑制的に働くことは広く認知されているが、TAMの誘導メカニズムは十分に解明されておらず制御法は明らかになっていなかった。

 

本研究では嗅覚受容体と鋤鼻受容体などの化学受容体がTAMの抑制機構に重要な役割を果たすこと、リガンドとして脂肪酸の一種のパルミチン酸が働くことを示した。TAMを制御するため嗅覚受容体や鋤鼻受容体あるいはパルミチン酸を標的とした治療法の進展が期待される。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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