難病Update

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BTK阻害薬ITPブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬リルザブルチニブ免疫性血小板減少症特発性血小板減少性紫斑病

2025.08.28

免疫性血小板減少症を有する成人患者におけるプラセボと比較したリルザブルチニブの安全性および有効性:第3相LUNA3試験

Safety and efficacy of rilzabrutinib vs placebo in adults with immune thrombocytopenia: the phase 3 LUNA3 study

David J Kuter*, Waleed Ghanima, Nichola Cooper, Howard A Liebman, Lei Zhang, Yu Hu, Yoshitaka Miyakawa, Wojciech Homenda, Luisa Elena Morales Galindo, Ana Lisa Basquiera, Chuen Wen Tan, Guray Saydam, Marie Luise Hütter-Krönke, Chatree Chai-Adisaksopha, David Gómez-Almaguer, Huy Tran, Ho-Jin Shin, Ademar Dantas da Cunha Junior, Zsolt Lazar, Cristina Pascual Izquierdo, Ilya Kirgner, Elisa Lucchini, Ganna Kuzmina, Michael Fillitz, Sylvain Audia, Minakshi Taparia, Matias Cordoba, Remco Diab, Mengjie Yao, Imene Gouia, Michelle Lee, Ahmed Daak

 

*Hematology Division, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA.

 

Blood. 2025 Jun 12;145(24):2914-2926. doi: 10.1182/blood.2024027336.

 

リルザブルチニブは共有結合型の可逆的ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬であり、免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)に関連する複数のメカニズムを標的としている。第3相LUNA3試験を実施し、持続性・慢性のITPがあり以前に治療を受けた成人患者に対して、24週間にわたってリルザブルチニブ400 mgを1日2回経口投与した群(n=133)と、プラセボ群(n=69)を比較して評価を行った。臨床試験参加者全員についてのベースラインでは、年齢の中央値が47歳、女性が63%、ITP罹病期間の中央値が7.7年、以前に脾摘を受けた者が28%であった。全体(n=202)のうち、リルザブルチニブ投与患者85例(64%)、プラセボ投与患者22例(32%)が最初の12週間で血小板反応(血小板数50×109/L以上、または、血小板数30×109/Lから50×109/L未満かつベースラインから2倍以上増加)を達成し、投与継続に適格とされた。主要評価項目は持続的な血小板反応(レスキュー治療なく、血小板数50 × 109/L以上が投与期間24週間の後半12週間のうちその2/3以上の8週間以上ある)であり、達成を認めたのはリルザブルチニブ投与患者の31例(23%)に対し、プラセボ投与患者では0例であった(P<0.0001)。すべての副次評価項目について、リルザブルチニブが有意に優れていた(P<0.05)。リルザブルチニブに反応した患者群において最初に血小板反応が得られるまでの日数の中央値は15日であった。リルザブルチニブ投与により、レスキュー治療の使用は52%減少と有意に減少した(P=0.0007)。また、リルザブルチニブ投与患者は25週時点での出血スコアが有意に改善した(P=0.0006)。リルザブルチニブによる身体的疲労の改善は13週(P=0.01)から25週(P=0.0003)まで持続した。治療関連有害事象は、主にgrade 1/2であった。リルザブルチニブ投与を受けた患者のうち、複数のリスク因子を有する1名が、重篤な有害事象であるGrade 3の末梢動脈塞栓症(左下肢)を発症した。また1名が投与と関連のない肺炎により死亡した。リルザブルチニブは、以前に複数のITP治療に反応しなかった患者に対して、迅速かつ持続する血小板反応を示し、レスキュー薬の使用や出血を減少させ、身体的な疲労を改善し、良好な安全性を示した。臨床試験登録:www.clinicaltrials.gov(#NCT04562766)およびwww.clinicaltrialsregister.eu#2020-002063-60)。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40090011/

 

コメント:

ITPは、以前は、特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura: ITP)と呼ばれていたが、血小板に対する自己抗体による免疫異常がベースにある疾患であり、最近では、免疫性血小板減少症(Immune Thrombocytopenia: ITP)と呼ばれるのが一般的である。いずれも、略称はITPである。長期に血小板数の減少が持続する慢性型は成人に多い傾向にある。治療としては、従来から、ステロイド剤や脾摘などがあったが、最近では、自己抗体を産生するリンパ球に作用する抗CD20抗体薬、血小板産生を促進する作用のあるトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬など多種類の薬剤が登場している。

 

ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)は、B細胞の増殖・活性化など免疫系の調節に深く関わる。血液内科領域において、BTK阻害薬はB細胞性悪性腫瘍の治療薬として実臨床で使用されている。また、造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GVHD)に対しても使用される。本論文ではそのBTK阻害薬のひとつであるリルザブルチニブの慢性型ITPに対する有望な治療成績が示されており、新たな治療戦略として興味深い。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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