難病Update

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2025.09.29

気管支拡張症患者の症状と将来の増悪リスク因子との関連及び長期マクロライド系薬療法の意義の検討:観察研究

Symptoms, risk of future exacerbations, and response to long-term macrolide treatment in bronchiectasis: an observational study

Oriol Sibila*, Jamie Stobo, Lidia Perea*, Yong-Hua Gao, Jin-Fu Xu, Holly Lind, Kateryna Viligorska, Arietta Spinou, Eva Polverino, Felix C Ringshausen, Montserrat Vendrell, Pierre-Régis Burgel, Charles S Haworth, Michael R Loebinger, Natalie Lorent, Raja Dhar, Hayoung Choi, Sanjay H Chotirmall, Anthony De Soyza, John R Hurst, Jeremy S Brown, Menno van der Eerden, Paula Kauppi, Emma D Johnson, Raul Mendez, Katerina Dimakou, Apostolos Bossios, Antoni Torres*, Francesco Blasi, Michal Shteinberg, Stuart J Elborn, Pieter C Goeminne, Stefano Aliberti, Lata Jayaram, Noel Karalus, Steven L Taylor, Megan L Martin, Lucy D Burr, Conroy Wong, Lotte Terpstra, Josje Altenburg, Wim Boersma, James D Chalmers

 

* Department of Respiratory, Hospital Clinic, University of Barcelona, Institut d´Investigacions Biomèdiques August Pi i Sunyer, CIBERES, Barcelona, Spain.

 

Lancet Respir Med. 2025 Aug 27:S2213-2600(25)00160-2. doi: 10.1016/S2213-2600(25)00160-2. Online ahead of print.

 

気管支拡張症の国際ガイドラインでは、年間の増悪が3回以上の患者に対してのみ長期マクロライド系薬療法を行うことを推奨している。しかしこれまでの研究において増悪回数よりも毎日の症状の方が気管支拡張症の活動性を示すマーカーであり、増悪リスクの高い患者を予測する指標であることが示唆されている。本研究では、増悪回数とは独立して「症状」が将来の増悪予測因子であるのかを検討し、また長期マクロライド系薬療法をすべきかどうかについて、検討した。国際多施設気管支拡張症データベース(EMBARC)の登録者から患者を選んだ。ベースラインの症状はquality-of-life bronchiectasis questionnaire respiratory symptomsスコア(QoL-B-RSS)を使い1年間以上追跡して将来の増悪リスクとの関連を調べた。また気管支拡張症患者341例を含めたマクロライド系薬に関する3つのランダム化対照試験(BLESS、BAT、およびEMBRACE)を実施して症状と長期マクロライド系薬療法との関連を分析した。EMBARC登録患者19,324例の中でベースライン時および1年後のQoL-B-RSS評価が利用可能であったのは9,466例であった。年齢中央値は68歳(IQR 58 - 74)、女性5,763例(60.9%)、男性3,703例(39.1%)であった。ベースラインの12ヵ月間におけるBronchiectasis Severity Indexスコアの中央値は7(IQR 4 - 10)であった。喀痰中に緑膿菌が認められた者は2,041例(21.6%)であった。増悪の予測リスク因子として、①過去の増悪(増悪毎のRR1.11(95%CI:1.10 - 1.12、p<0.0001)および②症状(QoL-B-RSSの10点低下毎のRR 1.10(95%CI:1.09 - 1.11、p<0.0001)であった。1年間の追跡期間中における増悪の回数は、ベースラインで増悪が3回以上あり症状スコアが平均レベルであった患者(QoL-B-RSS 60 - 70、RR 1.58[1.48 - 1.69])と、過去の増悪はないが症状スコアが高かった患者(RR 1.55[1.41 - 1.70])と同様であった。ランダム化対照試験の解析でもマクロライド系薬群とプラセボ群との間に同じパターンが認められた。長期マクロライド系薬療法により増悪予防治療の必要数は、ベースラインで増悪が3回以上あり症状スコアが平均レベルであった患者1.45回(1.08 - 2.24)と、過去の増悪は1回であったが症状スコアの高かった患者1.43回(1.06 - 2.18)と同程度であった。本研究の結果から、気管支拡張症において「症状」が将来の増悪に関する独立した危険因子であることが示された。症状スコアが高い患者においてもベースラインにおける増悪回数が多い患者と同様にマクロライド系薬療法による利益が得られることが示唆された。

 

本研究は、欧州連合(EU)、European Federation of Pharmaceutical Industries and the Associations Innovative Medicines Initiative Inhaled Antibiotics in Bronchiectasis and Cystic Fibrosis Consortium、およびEuropean Respiratory Societyから資金援助を受けた。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40885209/

 

コメント:

気管支拡張症の国際的なガイドラインや治療法において増悪回数が多い患者に絞って治療をすることとしているが、本研究の結果からは、増悪回数と独立して「症状」が将来の増悪の危険因子であることが示され、症状が強い患者に対しては長期マクロライド治療を行うことの利益があるとしている。症状負荷の高い患者を治療することにより、疾患の活動性を低下させ、頻回の増悪期への進行を予防できる可能性があるからであるとしている。喘息や慢性閉塞性肺疾患などの他の気道系疾患と同様に気管支拡張症治療のガイドラインにおいて症状を考慮したものに改定が必要と指摘している。本論文から離れるが、医師になって間もない時期に全肺の広範囲の気管支拡張症の若者の主治医となり、この病気の増悪の恐ろしさを強く認識させられたことがある。

 

監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

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