難病Update

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Hominenteromicrobium属YB328チェックポイント阻害剤腫瘍免疫腸内細菌

2025.09.29

樹状細胞の遊走を介して腸内細菌叢が牽引する抗腫瘍免疫

Microbiota-driven antitumour immunity mediated by dendritic cell migration

Nina Yi-Tzu Lin*, Shota Fukuoka*, Shohei Koyama*, Daisuke Motooka, Dieter M Tourlousse, Yuko Shigeno, Yuki Matsumoto, Hiroyuki Yamano, Kazutoshi Murotomi, Hideyuki Tamaki, Takuma Irie*, Eri Sugiyama*, Shogo Kumagai*, Kota Itahashi*, Tokiyoshi Tanegashima*, Kaori Fujimaki, Sachiko Ito, Mariko Shindo, Takahiro Tsuji, Hiroaki Wake, Keisuke Watanabe*, Yuka Maeda*, Tomohiro Enokida, Makoto Tahara, Riu Yamashita, Takao Fujisawa, Motoo Nomura, Akihito Kawazoe, Koichi Goto, Toshihiko Doi, Kohei Shitara, Hiroyuki Mano, Yuji Sekiguchi, Shota Nakamura, Yoshimi Benno, Hiroyoshi Nishikawa

 

*Division of Cancer Immunology, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan.

 

Nature. 2025 Aug;644(8078):1058-1068. doi: 10.1038/s41586-025-09249-8. Epub 2025 Jul 14.

 

腸内細菌は免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果に影響を与えるが、その機序は十分に明らかになっていない。今回われわれは、PD-1Programmed cell death 1)阻害剤が奏効した患者の糞便から分離したHominenteromicrobium属細菌の新規株(YB328と名付けられた)が、マウスにおいて抗腫瘍効果を増強することを示した。YB328は、CD103+CD11b-古典的樹状細胞(cDCconventional dendritic cell)に対する刺激を介して、腫瘍特異的なCD8+T細胞を活性化していた。この際、CD103+CD11b-cDCは糞便での曝露のあと、腫瘍微小環境に遊走していた。また、PD-1阻害剤非奏効群の患者の糞便にYB328を加えてマウスに糞便移植を行ったところ、PD-1阻害剤の抗腫瘍効果の改善を認めた。この結果は、YB328が支配的に作用している可能性を示唆する。YB328により活性化されたCD103+CD11b-cDCは、腫瘍特異的CD8+T細胞との結合の延長を示し、こうした細胞におけるPD-1の発現を促進した。さらに、YB238によるPD-1阻害剤の抗腫瘍効果増強は複数の癌モデルマウスで観察された。YB238をより多量にもつ患者は、さまざまな癌種でCD103+CD11b-cDCの腫瘍への浸潤が増加しており、PD-1阻害剤に対する奏効が良好であった。腸内細菌はCD103+CD11b-cDCの成熟および遊走を加速させ、さまざまな腫瘍抗原に反応するCD8+T細胞の数を増やすことで、抗腫瘍免疫を強化しているとわれわれは提唱する。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40659786/

 

コメント:

癌に対する治療方法としてチェックポイント阻害剤は多くの癌腫に対して効果を発揮している。しかしその効果は一律ではなく顕著な効果が出る集団と出ない集団が存在する。また近年腸内細菌が免疫系に与える影響が精力的に研究されてきている。本研究ではチェックポイント阻害剤による抗腫瘍効果の差に関して腸内細菌に注目して新たな知見を報告している。チェックポイント阻害剤で抗腫瘍効果のあった群となかった群で腸内細菌叢に差があり、それぞれに特徴的な細菌群が同定された。さらに効果のあった群から1種類の腸内細菌が単離しその菌株を用いてさまざま実験を行い、抗腫瘍効果につながるメカニズムを明らかにした。一方効果のなかった群から同定されたある菌種は抗腫瘍効果を減弱させる働きがあるのは興味深いと思われた。整腸剤やヨーグルト等で善玉の腸内細菌を摂取することが普通になっている昨今、今回同定された抗腫瘍効果を惹起させる菌を用いた治療法の進展は期待される。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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