
2025.10.30
スタチン使用期間と筋萎縮性側索硬化症リスク:ノルウェーの地域住民を対象としたコホート研究
Duration of Current Statin Use and Amyotrophic Lateral Sclerosis Risk: A Norwegian Population-Based Cohort Study
Ola Nakken*, Anders Myhre Vaage*, Hein Stigum, Kjetil Bjornevik, Trygve Holmoy*, Haakon E Meyer
*Department of Neurology, Akershus University Hospital, Lørenskog, Norway.
Neurology. 2025 Oct 21;105(8):e214221. doi: 10.1212/WNL.0000000000214221. Epub 2025 Sep 30.
高コレステロール血症は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の長期リスクに寄与する可能性があるが、疾患の診断前の初期における二次的な影響のようにもみえる。本研究では、スタチンの短期使用および長期使用とその後のALSリスクとの関連を検討することを目的とした。
コホート研究をデザインし、ノルウェーの地域住民を対象とした大規模な健康調査の参加者の心血管危険因子に関する情報を、その後のスタチン使用およびALS診断に関する全国規模の行政データと紐付けた。基準1日投与量の累積に基づいてスタチン使用期間を算出し、時間依存性曝露として0 - 1年(短期)、1 - 5年、5 - 17年(長期)の3段階で解析した。性別、年齢、健康調査への参加、トリグリセリド値、コレステロール値、ボディ・マス・インデックス、喫煙、糖尿病、高血圧について調整したCox回帰モデルで、時間依存性曝露に基づきALSのハザード比(HR)を算出した。
2005年1月の時点で40 - 65歳であった参加者425,564例(女性54%)を平均16(SD 2.3)年間追跡し、この期間に493例(女性44%)のALS症例が確認された。スタチン使用中でなかった場合と比較したALSのHRは、スタチン使用中で使用期間0 - 1年の場合が3.56(95%CI 2.58 - 4.90)、1 - 5年の場合が0.85(95%CI 0.59 - 1.23)、5 - 17年の場合が0.67(95%CI 0.45 - 1.00)であった。スタチンの短期使用および長期使用とALSリスクとの関連は、いずれも男性において特に明らかであり、ALSのHRはそれぞれ4.03(95%CI 2.72 - 5.95)および0.47(95%CI 0.26 - 0.86)であった。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41026994/
コメント
これまで、ALS病因タンパク質TDP-43が、コレステロール合成を制御する転写因子であるSREBP2の転写活性を通して、コレステロール合成を低下させることが報告されてきた。初期の進行を遅らせるには、脂質を含め高栄養が推奨されている。今回、ALS診断時点でのスタチンの短期使用とALSリスク上昇との強い関連が報告された。逆の因果関係と一致し、すなわち、ALSと無関係に何らかの原因で脂質の値が上昇し、ALS症状が現れ始めて患者が医療機関を受診したときに、診断前の段階でスタチンが開始されている可能性を筆者らは指摘した。スタチンの副作用は、急性筋症候群、いわゆる横紋筋融解がよく知られている。細胞膜の構成成分の脂質にスタチンが作用することも、副作用を起こす一因の一つと言われている。今回、ALS発症とスタチン使用は否定的結果が示唆された。脂質の発症要因と、発症初期の栄養補給に関する興味ある報告であり取り上げた。
監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生