難病Update

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CAR-T細胞CD7T細胞性悪性腫瘍リンパ芽球性リンパ腫急性リンパ芽球性白血病

2025.10.30

CD7を標的とした同種(allogeneic)CAR-T細胞であるWU-CART-007の再発/難治性T細胞性悪性腫瘍患者に対する第1/2相試験

Phase 1/2 trial of anti-CD7 allogeneic WU-CART-007 for patients with relapsed/refractory T-cell malignancies

Armin Ghobadi1, Ibrahim Aldoss, Shannon L Maude, Deepa Bhojwani, Alan S Wayne, Ashish Bajel, Bhagirathbhai Dholaria, Rawan Faramand, Ryan J Mattison, Anita Rijneveld, C Michel Zwaan, Friso Calkoen, Andre Baruchel, Nicolas Boissel, Michael Rettig1, Brent Wood, Kenneth Jacobs, Stephanie Christ1, Haley Irons, Ben Capoccia, Deborah Masters, Justo Gonzalez, Tony Wu, Maria Del Rosario, Alexander Hamil, Ouiam Bakkacha, John Muth, Brett Ramsey, Eileen McNulty, Jan Baughman, Matthew L Cooper, Jan Davidson-Moncada, John F DiPersio1

 

1Washington University School of Medicine, St. Louis, MO.

 

Blood. 2025 Sep 4;146(10):1163-1173. doi: 10.1182/blood.2025028387.

 

再発/難治性のT細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALLT-ALL)/リンパ腫(LBL)はアンメットメディカルニーズが大きい疾患である。WU-CART-007は、健康人ドナーのT細胞から作製された、CD7を標的とする、アロジェニック(allogeneic:同種)の、同胞殺し(fratricide)抵抗性のキメラ抗原受容体T細胞製剤である。WU-CART-007投与を、再発/難治性T-ALL/LBL患者に対して、33用量漸増デザインのあとにコホート拡大を行う第1/2相試験で評価した。患者は、標準的なリンパ球除去化学療法または強化されたリンパ球除去化学療法を受け、その後、WU-CART-0071回投与された。主要な目的である安全性の解析と複合完全寛解率の評価は達成された。登録された28名の患者のうち13名が、強化リンパ球除去化学療法後に第2相試験の推奨用量(RP2Drecommended phase 2 dose)である900 × 106個のWU-CART-007の投与を受けた。もっとも頻度の高い治療関連有害事象はサイトカイン放出症候群(88.5%に発生し、19.2%はGrade 3 - 4)であった。Grade 1の免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群事象が2件(7.7%)、Grade 2の急性移植片対宿主病事象が1件(3.8%)発生した。また、Grade 2の免疫エフェクター細胞関連血球貪食性リンパ組織球症様症候群を1件認めた。強化リンパ球除去化学療法後にRP2Dの細胞数の投与を受けた患者で奏効の評価が可能であった11例については、全奏効率は90.9%で、複合完全寛解率は72.7%であった。RP2Dの細胞数のWU-CART-007投与は再発/難治性T-ALL/LBLに対して高い奏効率を示し、その治療はそれらの患者に対しての新しい治療選択肢となる可能性がある。本試験はwww.ClinicalTrials.gov#NCT04984356として登録された。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40445850/

 

コメント:

B細胞性急性リンパ芽球性白血病、B細胞性悪性リンパ腫、多発性骨髄腫は、B細胞性悪性腫瘍であり、これらに対しては、それぞれに対する適切な抗原を標的としたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法が一般臨床で行われている。本論文は、T細胞性悪性腫瘍に対してのCAR-T細胞療法開発に向けた臨床研究論文である。本論文で述べられているCAR-T細胞製剤は、以下のような工夫がなされている。

 

ここでのCAR-T細胞の標的抗原はT細胞に発現するCD7である。したがって、作製されたCAR-T細胞は「T細胞性悪性腫瘍細胞」だけでなく「T細胞であるCAR-T細胞自身」も攻撃すると思われる。この同胞殺し(fratricide)を防ぐために、標的であるCD7をCAR-T細胞が発現しないように遺伝子操作されている。

 

もう一つの工夫として、CAR-T細胞製剤への腫瘍由来T細胞の混入を防ぐ目的で、他者である健康人ドナーのT細胞(つまり、allogeneicの細胞)を使用してCAR-T細胞製剤を作製している。また、この製剤を冷凍保存して使用に備えることは、できるだけ適正なタイミングで患者にCAR-T細胞を投与できるようにすること(off-the-shelf製剤による治療)にも役立つ。ただ、自家でなく他者のT細胞を用いるので移植片対宿主病(GVHD)が生じる危険性があり、そのリスクを軽減するために、T細胞レセプターα(TCRα)constant gene(TRAC)がCAR-T細胞で発現しないように操作が加えられている。

 

上に述べたような工夫をされたCAR-T細胞を用いることにより、T細胞性悪性腫瘍(急性リンパ芽球性白血病、リンパ芽球性リンパ腫)に対する有望な治療成績が示されている。

 

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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