難病Update

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ARDSCholesterol metabolismGWASSepsisゲノムワイド関連解析コレステロール代謝急性呼吸窮迫症候群敗血症

2025.10.30

急性呼吸窮迫症候群の発症感受性に関するゲノムワイド関連解析

Genome-wide association study of susceptibility to acute respiratory distress syndrome

Beatriz Guillen-Guio*, Eva Suarez-Pajes, Eva Tosco-Herrera, Tamara Hernandez-Beeftink, Jose Miguel Lorenzo-Salazar, Diana Chang, Rafaela González-Montelongo, Luis A. Rubio-Rodríguez, Olivia C. Leavy, Richard J. Allen, Almudena Corrales, Raquel Cruz, Miguel Bardají-Carrillo, Angel Carracedo, Eduardo Tamayo, V. Eric Kerchberger, Lorraine B. Ware, Brian L. Yaspan, Markus Scholz, André Scherag, Jesús Villar, Louise V. Wain, Carlos Flores

 

* Department of Population Health Sciences, University of Leicester, Leicester, United Kingdom; NIHR Leicester Biomedical Research Centre, Leicester, United Kingdom; Centro de Investigación Biomédica en Red de Enfermedades Respiratorias (CIBERES), Instituto de Salud Carlos III, Madrid, Spain.

 

EBioMedicine 2025 Oct:120: 105951. doi: 10.1016/j.ebiom.2025.105951. Epub 2025 Sep 30.

 

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は肺の急性炎症性疾患で集中治療室における敗血症などにより起こる重要な病態である。ARDSの発症感受性に関連している遺伝子座を見つけるためにゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。対象は、異なる3件の研究のデーターより重症感染症を伴ったARDS患者716例とそのリスクのある対照者4,399例である。ARDSとの関連を示唆する遺伝子座は、3件の研究において、一貫している、再現性が高い、名目上の有意差(p0.05)があるものとした。検出された変異遺伝子座について、別の2件の研究コホート(ARDS患者430例、対照者1,398例)で再評価した。分析の結果、HMGCR3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素)近傍の変異遺伝子座がARDSと有意な関連があると示唆された。この変異遺伝子座はコレステロール代謝と関連が認められているものであり、遺伝子ANKDD1Bの発現と関連している。希少エクソンバリアント解析ではHMGCRARDSとの関連性に有意性(p0.05)が認められた。HMGCR近傍の変異遺伝子座は別の2件の研究コホートでは有意性を認めなかったが、5件の研究に一貫して関連性が認められた。HMGCR近傍の変異遺伝子座がARDSの発症リスクに関連していたことからコレステロール代謝とARDSの発症感受性との関連が示唆される。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41033104/

 

コメント:

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は敗血症などにより発症すると肺の炎症性損傷が急速に進行し、低酸素血症と急性呼吸不全に至り、集中治療室(ICU)で管理をしても死亡率約40%の重篤な肺疾患である。効果的な治療薬として臨床試験で効果が実証されている特異的なものはないため発症感受性の高い者を予測することがとても大事である。ゲノム情報を活用することによりARDS発症リスクの高い者を特定できる可能性がある。本研究は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を使った症例対照研究を行い、遺伝子群の変異を比較し、その発症リスクを高くしている遺伝子座の特定を試みたものである。その結果、HMGCRがARDSの発症感受性に関連している遺伝子座である可能性があるとしている。このことはARDSの発症感受性にコレステロール代謝系が関連していることを示している。ゲノム解析の研究が多く行われるようになっているがARDSの治療や救命に実際につなげていくにはゲノム解析に引き続くさらなる臨床研究も不可欠である。

 

監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

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