難病Update

難病Update

SATB1キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)前駆疲弊T細胞(TPEX)持続的抗原刺激疲弊T細胞(TEX)

2025.11.27

転写制御因子SATB1が慢性炎症および癌におけるCD8陽性T細胞の細胞数増加とエフェクター細胞への分化を制限する

Transcriptional regulator SATB1 limits CD8+ T cell population expansion and effector differentiation in chronic infection and cancer

Leonie Heyden*, Lisa Rausch*, Michael H Shannon*, Lachlan Dryburgh*, Marcela L Moreira*, Aleksej Frolov*, Christina M Scheffler, Marit J van Elsas, Junming Tong, Olivia Hidajat, Sharanya K M Wijesinghe*, Sining Li*, Helena Horvatic, Nhat Truong Huynh-Anh*, Catarina Gago da Graça*, Carlson Tsui*, Maren Köhne, Daniel Sommer, F Thomas Wunderlich, Bianca von Scheidt*, Simone L Park*, Laura K Mackay*, Daniel T Utzschneider*, Jan Schröder*, Stephen J Turner, Phillip K Darcy, Marc D Beyer, Zeinab Abdullah, Axel Kallies

 

*Department of Microbiology and Immunology, The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity, University of Melbourne, Melbourne, Victoria, Australia.

 

Nat Immunol. 2025 Dec;26(12):2312-2327. doi: 10.1038/s41590-025-02316-2. Epub 2025 Oct 27.

 

CD8陽性T細胞は抗ウイルス免疫および抗腫瘍免疫の主要なメディエーターである。しかし、慢性感染や癌などでみられる持続的な抗原刺激では、CD8陽性T細胞は機能障害を示す疲弊T細胞へと分化する。前駆疲弊TTPEX)細胞は高い増殖能、自己複製能および分化能といった幹細胞様の特性を示し、持続的な抗原に対する長期的なCD8陽性T細胞反応を担っている。今回、われわれはクロマチンオーガナイザーかつ転写制御因子であるSATB1CD8陽性疲弊T細胞の分化に関する主要な制御因子であることを特定した。SATB1TPEX細胞に特異的に発現しており、細胞数の増加およびエフェクター細胞への分化を制限している一方でCD8陽性T細胞の機能は保っていた。SATB1のダウンレギュレーションは慢性炎症においてTPEX細胞がエフェクター細胞に分化する際に必要であり、急性ウイルス感染においてエフェクター細胞およびメモリー細胞へ協調して分化するのにも寄与していた。また、SATB1へのDNA結合はクロマチンアクセシビリティに依存するものと依存しないものの両方について、遺伝子発現を制御していた。さらに、SATB1CD8陽性T細胞およびキメラ抗原受容体T細胞による抗腫瘍免疫を制限していた。全体として、われわれの結果は感染および癌の両方について、SATB1CD8陽性細胞における前駆細胞の運命およびエフェクター細胞への分化に関与する中心的な制御因子であることを示している。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41145844/

 

コメント:

慢性感染や癌などでみられる持続的な抗原刺激によりCD8陽性T細胞は機能障害を示す疲弊T細胞へ分化することが知られているが、疲弊T細胞はヘテロな集団で自己複製能および分化能といった幹細胞様の特性前駆疲弊TTPEX)細胞やいわゆる反応性が乏しい狭義の疲弊細胞(TEX)などを含む。TPEXにクロマチンオーガナイザーかつ転写制御因子であるSATB1が高発現しており幹細胞様の機能である自己複製能、エフェクターへの分化能に対して抑制的に働く事を明らかにした。SATB1を抑制することでキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の抗腫瘍効果が増強した。SATB1の抑制が今後慢性感染や腫瘍に対する治療法の増強につながることが期待される。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

一覧へ