
2025.12.25
BCMA-mRNAワクチンは多発性骨髄腫に対する有望な治療法である
A BCMA-mRNA vaccine is a promising therapeutic for multiple myeloma
Debasmita Dutta1, Jiye Liu1, Kenneth Wen1, Arghya Ray1, Alessandro Salatino1, Xiangdong Liu1, Annamaria Gulla, Teru Hideshima1, Yan Song1, Kenneth C Anderson1
1Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, MA.
Blood. 2025 Nov 6;146(19):2322-2335. doi: 10.1182/blood.2025028597.
がんワクチンは、がんの予防法としてだけでなく、治療法としても有望となりつつある。今回、われわれはB細胞成熟抗原(BCMA:B-cell maturation antigen)タンパクを標的とした、多発性骨髄腫(MM:multiple myeloma)に対する治療ワクチンを開発した。COVID-19に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンがめざましい効果をあげたことを背景に、われわれは、まず、シークエンス及び塩基を最適化したBCMA mRNAを次世代イオン化脂質を用いた脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)に内包した。その製剤は、脾臓への高い蓄積性を示した。また、BCMA特異的な免疫反応誘起をさらに促進するため、Toll-like receptor 3のアゴニストであるポリイノシン酸:ポリシチジル酸[poly(I:C)]もLNP内に封入した。BCMA-mRNA LNPはin vitroで樹状細胞によって取り込まれ、BCMA特異的CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)の増殖及び活性化を引き起こした。重要なことに、これらのCTLはBCMA陽性のU266 MM細胞及びCD138陽性の患者MM細胞を傷害した一方、BCMAノックアウトU266細胞及びCD138陰性の患者由来骨髄細胞には影響を与えなかった。C57BL/6JマウスにBCMA-mRNA LNPワクチンを接種すると、脾臓の樹状細胞が活性化され、BCMA特異的CTLが誘導された(テトラマー染色で評価した)。そして、このBCMA特異的CTLはマウス5TGM1 BCMA過剰発現MM細胞を選択的に殺傷した。さらに、BCMA過剰発現5TGM1細胞を移植したC57BL/KaLwRijHsdマウスにワクチン接種を行うと、BCMA特異的CD8陽性T細胞応答と関連した腫瘍増殖抑制が観察された。poly(I:C)との併用治療により、BCMA-mRNA LNPの惹起する免疫反応は全例でさらに促進された。われわれの知見は、BCMA-mRNA LNPワクチンのMM患者予後改善効果について臨床的に評価する際の土台を提供する。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40700574/
コメント:
がん細胞に発現するタンパクは、それ由来の8個から10個程度のアミノ酸からなるペプチド断片がHLA class I分子とともに細胞表面に提示されCD8陽性キラーT細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)の標的抗原となり得る。この原理に則り、がん細胞に発現するタンパク由来のペプチドを認識するCTLを誘導しそのCTLにがん細胞を攻撃させることが可能となる。ペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンなどのがんワクチンがその例である。一方、BCMAは形質細胞を含むBリンパ球系に発現し骨髄腫の治療標的抗原として認知されており、それを標的としたCAR-T細胞療法はすでに骨髄腫の治療法として実臨床で実施されている。
また、最近、COVID-19に対するmRNAワクチンの大きな効果が示された。これらを背景にして、本論文では、BCMA mRNAを生体に投与することによりBCMA特異的CTLを誘導させる治療法、つまり、BCMAを標的としたmRNAワクチン開発のための基礎研究結果が述べられている。BCMA mRNA製剤を投与することによるBCMA特異的CD8陽性T細胞応答や抗腫瘍効果などが実験結果で示されており、BCMA mRNAワクチンは有望な骨髄腫治療となる可能性が示されている。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生