難病Update

難病Update

Anti-NMDAR encephalitisimmunotherapyPrediction scoreReturn-to-work免疫療法抗NMDA受容体脳炎患者職場復帰転帰予測スコア

2025.12.26

抗NMDA受容体脳炎患者に対するファーストライン免疫療法後の長期の転帰・改善予測のスコア(NEOS2)の開発と妥当性の検証:国際コホート研究

Development and validation of the NEOS2 score for prediction of long-term outcomes and improvement after first-line immunotherapy in patients with anti-NMDAR encephalitis: an international cohort study

Juliette Brenner*, Anna E. M. Bastiaansen*, Mar Guasp, Sergio Muñiz-Castrillo, Takahiro Iizuka, Marienke A. A. M. de Bruijn*, Amaia Muñoz-Lopetegi, Eugenia Martínez-Hernández, Géraldine Picard, Alberto Vogrig, Mathilde Millot, Carsten Finke, Christian Geis, Jan Lewerenz, Nico Melzer, Harald Prüss, Saskia Räuber, Marius Ringelstein, Kevin Rostàsy, Kurt-Wolfram Süh, Franziska S. Thaler, Klaus-Peter Wandinger, Katharina Wurdack, Yvette S. Crijnen*, Jeroen Kerstens*,Robin W. van Steenhoven*,Sharon Veenbergen, Marco W. J. Schreurs, Robert van den Berg*,Victor Volovici, Rinze F. Neuteboom*, Juna M. de Vries*, Peter A. E. Sillevis Smitt*, Mariska M. P. Nagtzaam*, Suzanne C. Franken*, GENERATE Study Group, Josep Dalmau, Frank Leypoldt, Jérôme Honnorat,c and Maarten J. Titulaer*

 

*Department of Neurology, Erasmus University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands

 

The Lancet Regional Health - Europe 2026;62:101562

 

抗N-メチル-D-アスパラギン酸(抗NMDA)受容体脳炎は主に若年者が罹患する重度の疾患であるが、適切な治療により改善する疾患である。抗NMDA受容体脳炎の1年後の機能的状態予測スコアとしてはNEOSスコア(anti-NMDAR Encephalitis One-year functional Status)がある。本研究は、患者について1)ファーストライン免疫療法後の改善、2)追跡調査1年後の機能的転帰、3)3年以内の通学または通勤の再開の予測を簡単に入手できるデータを利用して、NEOSスコアの改訂版としてNEOS2スコアを開発し、その有用性を検証することである。本研究は、フランス、ドイツ、日本、オランダおよびスペインで抗NMDA受容体脳炎として確定診断(臨床基準+CSF抗体検査)を受けた患者を対象とした国際的なコホートによるものである。スコアを作成し、短期(ファーストライン療法2週間後のΔmRS)、中期(1年後のmodified Rankin Scale)、および長期(3年以内の学校または職場への復帰)の転帰を予測できるか検討した。モデルは、臨床変数およびバイオマーカーを用いてロジスティック回帰分析を用いて検証した。対象患者は2007年から2022年の間に診断された患者702例(平均年齢23歳(95%CI:2 - 69)、女性79%、男性21%であった。ファーストライン免疫療法を672例(96%)が受けていた。2週間以内に通勤/通学を再開していた改善者は38%(615例中233例)、1年後は80%(644例中517例)、3年後は73%(278例中203例)であった。多変量解析により転帰不良に関連していた独立変数は、高年齢(オッズ比[OR]:0.35(0.29 - 0.43)、p<0.0001)、治療の遅れ(OR:0.49(0.41 - 0.58)、p<0.0001)、運動障害(OR:0.32(0.24 - 0.41)、p<0.0001)、ICU入室の必要性(OR:0.34(0.26 - 0.44)、p<0.0001)およびCSF中の白血球数増加(OR:0.65(0.60 - 0.71)、p<0.0001)であった。NEOS2の診断の精度のAUCは80%(75 - 86)であった。年齢を除いた変数を用いて評価しても、ファーストライン免疫療法後の改善予測精度が高かった(NEOS2-T:AUC 81 - 84%(77 - 86))。学校または職場への1年後の機能的転帰も高い精度で予測することができた(NEOS2-W:AUC 80%(75 - 85))。ファーストライン免疫療法後の高い確率での改善予測(80%、25例中20例)および良好な転帰の達成予測精度は100%(32例中32例)、ファーストライン免疫療法の高い失敗予測の精度は97%(79例中77例)、学校または職場への高い復帰不能の予測精度は94%(16例中15例)であった。NEOS2スコアは、診断時に簡便に利用でき、転帰が良好、転帰不良に係わらず予測することができた。また早期強化療法が必要な患者を特定することができた。層別化してNEOS2スコアの治療決定や至適レジメンとしての有用性について検討するにはさらに前向き研究が必要がある。

 

本研究は、Dioraphte(慈善、プロジェクト2001 0403)から資金援助を受けた。

 

URL

https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(25)00354-0/fulltext

 

コメント:

NMDA受容体脳炎は、2007年に初めて報告されたNMDA受容体に対する自己抗体による免疫介在性の脳炎である。小児から高齢者まで幅広く罹患している。疾患の転帰を予測するスコアとしてすでにNEOSスコアがあり広く利用されている。しかしNEOSスコアは1年後の転帰予測のものである、長期の転帰予測には限界がある。そこで、患者が仕事や学校に戻ることが可能かどうかの長期の転帰を予測する簡便な代替アウトカム尺度が必要とされている。そこで、NEOS2NEOS2-W、およびNEOS2-Tモデルを開発して、本研究では検証を行っている。その結果、NEOS2スコアは日常の臨床診療に簡単に適用でき機能低下の予測だけでなく早期強化治療が必要な患者を正確に特定することできるとしている。NEOS2スコアの検出力が向上していくためには患者を層別化して今後コホート研究が必要としている。

 

監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生

一覧へ