
2026.04.28
T細胞受容体模倣抗体を発現するように設計されたT細胞を用いて3種類の抗原を標的とする治療法は、抗原消失による免疫逃避の影響を最小化する
Trispecific targeting of T cells engineered with TCR mimic antibodies to limit antigen escape
Tao Dao*, Guangyan Xiong, Jeremy Meyerberg*, Zita Aretz*, Akihiko Shiiya*, Tatyana Korontsvit*, Jingbao Liu, Ziyou Cui, Neel Panchwagh*, Winson Cai*, Chenyang Zhan*, Hongbing Zhang, Cheng Liu, David A Scheinberg
*Molecular Pharmacology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, New York, USA.
J Immunother Cancer. 2026 Jan 14;14(1):e013685. doi: 10.1136/jitc-2025-013685.
背景:抗原の消失および腫瘍の不均一性は、免疫療法の成功における大きな障害となっている。T細胞受容体(TCR:T-cell receptor)を用いた治療は、細胞表面の主要組織適合抗原class I分子により提示される細胞内腫瘍蛋白由来エピトープをTCRが認識することに依存している。固形癌の細胞は、特定の免疫原性エピトープのプロセシングおよび提示に非常に重要である免疫プロテアソームをしばしば欠いている。抗原の喪失および腫瘍の不均一性というリスクを軽減するための有効な戦略の一つとして、複数の腫瘍抗原を同時に標的とすることがあり、それは疾患の再発を防ぐ重要な手段になり得る。われわれは以前に、HLA-A2拘束性に提示されるWilm's tumor 1(WT1)由来エピトープRMFPNAPYL(RMF)に特異的なTCR模倣モノクローナル抗体(TCRm:TCR mimic monoclonal antibody)「ESK2」を用いて、新規キメラ抗原受容体T細胞プラットフォームである『抗体-TCR受容体(AbTCR)-キメラシグナル伝達受容体(CSR)』を開発した。しかし、RMFエピトープは免疫プロテアソームによるプロセシングに大きく依存しており、その免疫プロテアソームは白血病細胞では失われる可能性があり、また、固形癌細胞にも存在しないことがある。
方法:抗原消失、腫瘍の不均一性の影響を軽減し、また、AbTCR T細胞の適応範囲を広げるため、われわれは、ESK2を、HLA-A2分子拘束性に提示されるWT1由来免疫プロテアソーム非依存性エピトープのVLDFAPPGA(VLD)に対する新規TCRm(ESK3)と組み合わせた。ESK2およびESK3を1つのAbTCR-CSRコンストラクトにタンデムに組み込み、WT1のRMFエピトープとVLDエピトープの両方を同時に認識できるようにした。さらなる特異性を付与するため、また、効力を増強するため、上記の細胞のCSRには白血病治療のためのCD33、または、固形癌治療のためのメソテリンを標的とする単鎖可変領域フラグメント(scFv)を組み込んだ。このAbTCR-CSRの特異性と有効性をin vitroとin vivoの両方で評価した。
結果:In vitro実験では、3抗原特異的AbTCR-CSR(CD33 CSR)T細胞はほとんどの骨髄性白血病細胞に対して最良の殺細胞活性を示した。ほとんどの固形癌の細胞株に対して、ESK3 AbTCR-CSR(メソテリンCSR)は、3抗原特異的AbTCR-CSR、または、ESK2とESK3 AbTCR-CSRの組み合わせと同等のレベルの細胞毒性を示した。動物を用いた治療モデルでは、3抗原特異的AbTCR-CSR T細胞は造血器腫瘍細胞または固形癌細胞に対してESK2-AbTCRまたはESK3-AbTCR-CSR単独のT細胞と同等の有効性を示し、エピトープ消失した変異細胞をも標的にできるという3抗原を標的とする戦略の優位性をさらに支持した。
結論:WT1ペプチド/HLA-A2複合体の免疫プロテアソーム依存性および非依存性のエピトープを標的とし、そしてまた3つ目の腫瘍関連抗原を認識するCSRをも装備した3抗原特異的T細胞は、腫瘍の免疫逃避を克服するための有効で費用対効果の高い治療手段となり得る。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41534901/
コメント:
がん抗原特異的免疫療法において、治療中に標的抗原が消失してしまうこと、あるいは、がん細胞に多様性がありその標的抗原を発現する細胞と発現しない細胞が混在することは、治療の成功のための大きな障壁となる。この障壁を乗り越えるために、本論文では、複数の抗原を標的とするがん免疫療法薬剤の研究開発が述べられている。ここでは、白血病に対しては細胞内抗原のWT1と細胞表面抗原のCD33が標的であり、固形がんに対してはそのWT1と細胞表面抗原のメソテリンが標的である。
WT1はがん抗原として世界的によく研究されている細胞内タンパクであり、がんワクチン療法(ペプチドワクチン、樹状細胞ワクチン)、T細胞レセプター(TCR)療法、本研究の基盤となるTCR模倣抗体(ミミック抗体)療法などでは、HLA分子とともに細胞表面に提示されるWT1ペプチドが免疫系からの認識の標的となる。ここでは、RMFペプチドとVLDペプチドの2種類のペプチド(いずれも、HLA-A2分子とともにがん細胞表面に提示される9アミノ酸からなるペプチドで、TCRやTCR模倣抗体に認識されるエピトープとなる)を標的とする薬剤が作成された。つまり、本論文においては、WT1の2種類のペプチドと細胞表面抗原(CD33あるいはメソテリン)の合計3種類を標的とするがん免疫療法薬剤の開発にむけた基礎実験データが示されている。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生